飴玉感覚
05


彼は線路を歩いていた。
正確には、線路、と、イメージされるサイトの中を歩いていた。
この線路には幾つものマンションが面している。
そのベランダはまるで鳥篭が並んでいるよう。
だからここはこう呼ばれている。
鳥篭街、と。

鳥篭街はいつだって夕方あたりの時間帯をうつしている。
夕焼け、でも夜にならない曖昧さ。
それが、藤色の風景として表現されている。
赤くなく、暗くもない。
そんな曖昧なところだった。

ここに来ると、気分が心の奥で急いている感じがする。
誰かに逢わなくちゃいけないような感じがする。
誰にも逢いたくなんかないはずだ。
自分は一人がいい。
孤独を愛するハッカーのはずだ。
それでも…
ここに来るとそれが崩れる気がする。
誰かに逢わなくちゃ。
そんな思いがするのだ。

彼は線路を歩きながら、鳥篭街を眺めた。
鳥篭街を秘密の逢瀬に使う恋人。
鳥篭街を秘密基地にする子ども。
鳥篭街に安らぎを求める大人。
いろんな人を見てきた。
それでも、自分の安住の場はなくて…
だからこそ誰かに逢いたくなった。

羽を休めたかった。
でも、捕まるのはまっぴらごめんだ。
アクセス制限をかけられたこの身、いつ捕まるかもしれない。
本当の自分はどこにいるんだろう?
自分は本当は何を欲しているんだろう?
わからなくなった。

彼は線路を歩く。
ふと、線路の先に人影を見つけた。


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