飴玉感覚
09


彼はまたネットワークの海へとダイブした。
シャワーを浴びたら昨日までのことは水に流れたらしい。
意外と、立ち直りが早いのかもしれない。

彼は「彼女」と呼ばれる人物に会いに行くことにした。
「彼女」とは…「彼女」としか言いようがない。
名前があるのかもしれないが、誰も名前を呼んだことがない。
ただ、「彼女」と呼ばれている。
そんな女性がいた。

熱帯性の木々が生い茂る、いわゆるジャングル。
そこで、正義を掲げる両軍が激突していた。
正義は必ず勝つけれど、両方に正義がある場合はどうなるんだろう?
彼はそんな事を考えながら密林を抜けていった。

密林の奥、古ぼけたビルがある。
一見誰もいないように見えるが、この中に「彼女」がいる。
彼は入り口を見つけると、ビルの中へ入っていった。

「彼女」はビルの階段の踊り場にいた。
踊り場に立ちながら、配管から漏れたキタナイ水を浴びていた。
まわりには苔が生していて、昨日今日配管が壊れて訳ではないことを表していた。
「彼女」の服は水の所為でぴったりと張り付いており、身体の線を露にしていた。
彼は声をかけられずにそこにいた。
ぼんやりと水を浴びる彼女を、やはりぼんやりと彼は見ていた。

しばらくすると、ビルの中から「彼女」の父母と思われる人物が出てきて、
「彼女」を部屋の中へ連れ戻してしまった。
体裁みたいなものかもしれない。
こうして大人は大切なものを隠していくんだ。
彼はまた、大人が嫌いになった。

水を浴びる彼女。
「彼女」には何と話をすればいいのだろう?
「彼女」にはこちらの言葉は何も届かないようで…
僕は見詰めるしか出来ない。

彼はその場を去った。


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