斜陽街で逢いましょう
02


探偵は、斜陽街一番街のバーにやってきた。
古ぼけた建物、きぃきぃ鳴る「BAR」の小さな看板。
茶色の扉も古いものであった。
探偵はその扉をゆっくり開いた。
意外と扉は軽く、音も無く開いた。
鳴った音は、来店を告げる鐘の音だけ。
からんころんからんと。

いつもの席に彼はいた。
その彼こそ、探偵がここに来た理由であった。
彼は妄想屋。
妄想屋・夜羽(よはね)
斜陽街内外問わず、妄想を集める事を生業としている。

「景気はどうだ?」
「よくないね」
夜羽はそう言うと、薄い 発泡酒に手を伸ばした。
「葬儀屋と妄想屋は人類滅亡しない限り儲かりそうなものだけどなぁ」
「妄想屋は話してくれる人がいないと儲からないさ」
探偵は夜羽の向かいに座った。
夜羽は発泡酒を飲み干し、唇だけで微笑んだ。

「ところで…」
夜羽が切り出した。
「ここに聞き込みに来るって事は、依頼はそんなに特殊なのかい?」
探偵は苦笑いした。
「や、そんなでも無い。人探しだ。ただの」
「ふぅん…」
気のなさそうな返事を、夜羽はした。

「ここに君の求める情報はないと思うよ。あるとすれば…そうだね、最近入った妄想くらいだしね…天使を捕らえたいらしい妄想なんだ」
夜羽は妄想を録音したであろう、カセットテープを取り出した。
「妄想はいらないんだ、俺は情報が欲しいんだ」
「やっぱり」
夜羽は微笑んだ。
「その方が多分君らしいという事なんだと思うよ」

探偵はいっぱいだけ酒をあおり、バーを出ていった。


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