斜陽街で逢いましょう
03
探偵はとある喫茶店にいた。
バーではない。
喫茶店だ。
ここは、斜陽街二番街にある喫茶店。
名前を「ピエロット」という。
中は洒落た喫茶店で、一歩踏み込めばオルゴールの音楽が客を出迎えてくれる。
店内を見渡しても、そんな曲がかかるようなオルゴールは見当たらない。
多分、CDか何かをかけているのだろう。
それより、見渡すと気がつくのは、喫茶店の名前の由来である。
壁にはピエロの仮面。
棚にはバイオリンを奏でるピエロの人形。
そこかしこに、悲しげな顔を化粧で隠したピエロがいた。
「いらっしゃいませ」
そう声をかけてきた店員も、ピエロの仮面をしていた。
「よーお」
声をかけてきたのは、ピエロットに居着いているギター弾き。
長い前髪で視線が見えない。
今一つ、何を考えているかわからない男である。
だが…
「『太陽』は相変わらずか?」
「『太陽』…ああ、相変わらず見つからんよ…」
『太陽』と言う単語に関してだけ、ひどく悲しそうな反応を見せた。
「で、どうした?」
男は悲しみを前髪の奥に追いやった。
「人探しだ。探されている男がいる」
「男なら関係無いな…その筋の情報も無いさ」
男はギターを爪弾いた。
「そうか…」
探偵は出て行こうとして…
ふと、振り返る。
「相変わらず、依頼する気はないのか?」
「何故だろうな、依頼しても『太陽』は戻ってこない気がするんでな…」
探偵は苦笑いした。
「信頼が無いんだな、俺も」
ギター弾きも笑った。
「ここは斜陽街、『太陽』はここじゃ輝けないさ…」
探偵は彼を見やり、ピエロットをあとにした。