斜陽街で逢いましょう
06


探偵は情報通り、酒屋にやってきた。
ここで売られている酒は少し特殊で…
なんでも、酒屋の主がどこかから詰めて持ってくるらしいのだ。
主も主で、へんてこな関西弁もどきを使う、かなり怪しげな青年だ。
だが、探偵がそこに来たときは主は不在で
かわりに、自称その弟子の青年が店番をしていた。

「この人、探しているんだ」
探偵は写真を見せる。
「うーん…師匠がいればわかるかもしれませんが…」
弟子の青年は思い当たることがないようだ。

「おーい、帰ったでー」
入り口で声がした。
「はい、おかえりなさい、師匠」
弟子の青年が出迎えた。
男が一人入り口にいた。
黒の釣り鐘マントにジーンズ、長めの髪を大雑把に束ねている。
イマイチ何を表現したいのかわからない格好だ。
これが酒屋の主である。
なんでも、場所に染みついた思い出を凝縮させ、それを酒として売っているらしい。
その所為かどうかは知らないが、一部の人間には評判がいいそうだ。
「なんや、探偵の旦那もおったんかいな」
「いちゃ悪いか」
「いーや、珍しい思うてな。で、何買いにきたん?」
「今日は聞き込みに来た。それだけだ」
「ますます珍しいわ。なんぞ事件か?」
探偵は再び写真を示す。
主はしばらく眺め…
「ここの路地曲がって入っていくのを見た…それから…」
「それから?」
「音屋でも見た気がする…よくは見てへんけど」
「路地裏と音屋、か…」
酒屋の先の路地…先には、扉屋と鳥篭屋がある。
それから音屋。
音に関するものなら何でも揃うという。
探偵は手帳にメモをした。


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