斜陽街で逢いましょう
07
斜陽街の音屋。
一説によれば音に関して揃わないものはないと言われている。
探偵はそこにやってきた。
入り口の扉を開く…と、溢れ出る音・音・音…
個々の音をまったく無視した、音という塊がうねっているような印象だ。
探偵は入り口の扉を閉めた。
ただのガラスを張った扉である。
こんな音の群れを閉じ込めるなんて思えないが…
それが斜陽街なのだろう。
眼鏡をかけた音屋の主人が探偵に気がついた。
音屋の主人は小さなホワイトボードに
『いらっしゃいませ』
と、書き、卓上を指差した。
同じようなホワイトボードがある。
これで会話しろとのことらしい。
『探し人がいる』
探偵はそう書き、写真を示した。
音屋の主人は、眼鏡の奥の眼をシパシパさせた。
何かを見るときの癖らしい。
『音製品を一つ購入していった。それ以降はわからない』
と、返してきた。
何かここで買っていったらしい。
『音製品?』
『音を発する機械です』
「トマトやジャガイモでないのは確かだろうけどなぁ…」
探偵は音にかき消されながら呟いた。
『その音製品には音以外のものが宿ったらしく、ここには帰ってきません』
『どうして?』
『音屋という店自体がそれを受け付けないのです』
今まで、何度もそういう問答をしたらしい。
音屋はさらさらと返してくる。
ともかく、探し人の足取りが一つとれた。
『ありがとう』
探偵はそう書き、音屋の主人は頷いた。
探偵は音屋をあとにした。
「次は酒屋の路地のむこう、扉屋か鳥篭屋だな…」