斜陽街で逢いましょう
08
斜陽街一番街、酒屋の路地むこう。
一番街ですら、少々くすんだ印象のある斜陽街だが、
路地に入るとその印象はもっと強くなる。
配管剥き出しの建物や、シャッターを降ろしてしまった建物、
家とも店ともつかない建物。
それが、行き止まりまで続いているのだ。
探偵は、そんな斜陽街路地裏の鳥篭屋にやってきた。
ガラス張りの扉をガラガラさせて開くと、静かな店内であった。
蛍光燈が時折ピラピラしながら、編まれたであろう鳥篭達を照らしていた。
「こんにちわ」
探偵はとりあえず呼びかけてみる。
返事はない。
「こんにちわぁ」
先程よりももう少し大きな声で呼びかけてみる。
すると、少々荒い足音が聞こえ…だんだん大きくなり…
恰幅のいいおばさんが姿をあらわした。
「いらっしゃい。お客だろ?」
物言いはあまり丁寧でないようだ。
「すまない、お客でなくて…こういう人を探しているんだが」
探偵は写真を示す。
おばさんはポケットから老眼鏡を取り出し、しげしげと眺める。
すると、
「しってるよ。ここに来た事がある」
「で、鳥篭を買っていったとか…?」
「いや、結局買っていかなかったね…」
おばさんは当時の事を思いだそうとしている。
腕を組んで、明滅する蛍光燈を見詰めている。
「なんでもね…天使を入れる篭が欲しかったんだとか…」
「天使?」
「そう、天使なんだって。よくわかんない事言ってたね…」
「ふーむ…」
「天使入れるならここの篭は向かない。ここの鳥篭は家に戻るためのもの。そう言ったら出てったよ」
探偵はしばらく考え込み、
「ありがとう」
と、出ていった。
「行方不明の男は天使を捕らえたがっていた…か」
そんな話がどこかにあった気がする。
探偵はそこをあたる事にした。