斜陽街で逢いましょう
09


探偵は巡り巡ってスタート地点に戻ってきた。
ここは一番街のバー。
妄想屋を生業としている夜羽がいるバーだ。
そういえば、夜羽に写真を見せた覚えが無かった。
だからこんなに遠回りしたのかもしれない。
「やれやれ…」
探偵は自分自身に肩をすくめた。

「ああ、この人だね。天使を捕らえたい妄想くれたのは」
写真を見せて開口一番、夜羽はそう言った。
探偵は少し脱力した。
見せていればあちこち歩き回る必要も無かったのである。
脱力を打ち消すように、探偵はカクテルをぐっと飲み干した。
「で、どこに行ったとかの情報はないのか?」
「んー…」
夜羽は見えない眼で多分宙を見た。
「ここに天使がいないなら、ここでないどこかに行くまでです。そんな事言ってた気がするな」
探偵は嫌な予感がした。

斜陽街にひとつ、異世界を繋いでいる店がある。
扉屋である。
扉屋には無数の扉があり、その扉一つ一つが別の世界と繋がっているという…
無論、安全な異世界だけではない。
そのあたりは探偵も夜羽もよくわかっている。

「ここではないところ行くとしたら…手っ取り早いのは扉屋だよな…」
「そう、僕もそう言ったんだ」
あっさりと夜羽が言う。
それは、扉屋に行けといってるようなものじゃないかと探偵は思った。
「依頼人に事情話した方がいいかねぇ…」
「なんだ、人探し打ち切るの?」
「いや『もしも』と言う事もある、そういうことだ」
「ふぅん…」

探偵はもういっぱい酒をあおると、バーを出て行こうとした。
「待って」
夜羽が引き止める。
「ひとつ訊いていいかな」
「なんだ?」
「音屋のオルゴールがここにあるんだけど、それに関して音屋さん何か言ってたかい?」
「そういえば、音以外のものを入れたのがどうとか、言ってた気がするな…それが何か?」
「いや、いいんだ。引き止めて悪かった」
探偵はバーをあとにした。


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