斜陽街で逢いましょう
10


探偵は、依頼人が住まう二番街の猫屋敷にやって来た。
屋敷というほど大きな物ではなく、
建物の間にひっそりとたたずんでいる家。
裏は廃ビルで、すっぽりとその影になってしまっている。
そんな場所だった。

呼び鈴を鳴らすと、依頼人の女性はすぐに出てきた。
足元に猫をたくさん連れて。
「あ…探偵さん」
「どうも」
探偵は軽く会釈をした。
「それで…見つかったのでしょうか?」
「見つかったというか…見付かりにくい場所へと行った可能性が高いと思われます」
「…それは?」
「扉屋…そこに行ってしまった可能性があります」
「扉屋…」
斜陽街の住人ならわかっている。
扉の向こうに行き、住人になってしまったら戻れる可能性は薄い。
しかし…
「あの…もう半分はどこに行ったのでしょう?」
「もう半分?」
探偵は聞き返した。
「あの人は、行方不明になる前に言っていたんです。半分は斜陽街に置いていく、と…」
「半分…」
初耳である。
そんな事を言われているのなら、初めに言ってほしかったと探偵は思った。
「それで…半分の行方は…」
「残念ながら、そちらは、まだ…」
「そうですか…」

「あの人は言っていたんです。夢を追いたい。でも、君を想っているのも事実だ…だから」
だから自分を半分斜陽街に置いていく。そう言ったらしい。
「半分ですか…」
探偵の調査は、ここで再スタートとなった。

とりあえず、もう半分には逢えないだろうか?


戻る