斜陽街で逢いましょう
13


男と探偵は夜羽のいるバーにやって来た。
夜羽は相変わらず退屈していて、音屋に戻っていないオルゴールをいじっていた。
探偵はすぐさま交渉に入った。
ここまで来たら、きっちりと話がつくまで付き合ってやろうと思っていた。
夜羽はあっさりとオルゴールを渡した。
が、男の続編妄想が聞きたいとごねた。
そして、男が天使に逢ったらしいと聞くと、
「天使の妄想ってどんなのだろう」
と、また訳のわからないことを言い出した。
男と探偵は夜羽を半ばほったらかして依頼人に逢うことにした。

二番街の猫屋敷。
探偵は再びそこにやって来た。
男は…多分はじめてやって来た。
依頼人の女性は、やって来た男に少しぎょっとしたようだった。
義手義眼。覚えていた姿と違うのだから、それも仕方ないだろうと思われた。
探偵は男にオルゴールを持たせた。
「俺の仕事はここまでだ、あとは二人で話しつけな…」
微かな音のなる小さな箱。
ここに半分が封じられているなんて普通は信じないだろうなと思われた。

男は依頼人と猫屋敷の中へ入っていった。
煙草3本分くらいの間があり…
男が出て来た。
オルゴールは持っていない。
「待っていたんですか?」
「なんとなく、ケリが付くのは見たかった気がするんでな…」
「そうですか…。あの人はわかってくれました。オルゴールに半分があることを…」
「そうか…」
「夢を追う半分と、傍にある半分に分かれたことを…わかってくれました」
「それで、これからどうするんだ?」
「また、夢を追います。奇跡を起こしたいんですよ…」
男は笑った。
青い空を思わせる笑みだった。

夢を追うと男は言った。
そして扉屋の鉄の扉から帰っていった。
そう、もう彼にとって帰る場所はこの扉の向こうなのかもしれなかった。
「依頼、一件終了…か」
帰って飲むかな、と、探偵は思った。
今日の酒は達成感とあいまってうまいものになるだろう、とも。
そうして探偵は、最後に名乗った男のことを思い出していた。
「レオン、か…」
確か、そんな名前だった。


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