斜陽街で逢いましょう
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螺子師の生活。
それは自分の螺子を確認することからはじまる。
起きて、髪の毛をわしゃわしゃとする。
こうして頭の螺子を確かめるらしい。
螺子の締まり具合によっては、特殊なドライバーで締め直す。
そのあと、髪のセットをする。
そうして朝がはじまる。
螺子師に螺子巻きを頼むお客は少なくない。
人間の螺子だけに限らないからだ。
人形、椅子、或いはテレビ。
螺子師のところに持ってこれないようならば、螺子師が出張することもある。
螺子師はそうやって生計を立てている。
これは、先代から、先々代から変わらない螺子師の営みなのだ。
螺子師には商売敵がいる。
螺子ドロボウだ。
螺子は人を束縛する。
そういう考えのもと、人の螺子を奪ってしまうらしい。
実際、そういった高尚な目的があるかどうかは分からない。
それでも、螺子を奪われてはいけない。
食い扶持がなくなるし、なにより、螺子を奪われた人間は締まりがなくなるのでよくない。
螺子師はそういう人間が好きではなかった。
だから螺子ドロボウを目の仇にしていた。
日によっては螺子ドロボウと戦うこともある。
螺子ドロボウが螺子師をからかいにやってくるらしい。
勝負がつく前に螺子ドロボウが去ってしまうので、未だ勝負はついたことがない。
螺子師はそんな中途半端が嫌だった。
勝つなり負けるなり、はっきりさせたかった。
だから、螺子ドロボウの意図は全然見えなかった。
螺子師が疲れると、やってくる場所がある。
それについては、別のお話。