斜陽街で逢いましょう
17
ある日のこと。
螺子師のところへ人形師がやってきた。
人形師は人形を扱うことを仕事にしている。
びっくりさせる、びっくり人形なるものがお気に入りらしい。
ともかく、その人形師がやってきた。
「螺子を探してくれ?」
いぶかしげに螺子師が聞き返した。
人形師は頷いて肯定した。
「トムの調子がよくないのだ…」
人形師が鞄の中から人形を取り出す。
大きさは大体、2リットルのペットボトル程度。
あまり大きくないが、首と背中の間あたりに大きな穴が空いていた。
「ここに、入る螺子があるはずなのだが…」
「それを探せばいいんですね」
「そういうことだ」
螺子師はノギスを取りだし、直径を測った。
測っている間、どうも人形の質感が肉っぽくて嫌だったが、取り合えずサイズはとった。
「はい、サイズは測りました。入荷したら連絡しますからね」
そして少しのやり取りのあと、人形師は去っていった。
螺子師はサイズを記した紙を見詰めた。
「ゼロ螺子…」
以前聞いたことのある、意志をつかさどる螺子のうちの一つだ。
他にも色々螺子はあるが、ゼロ螺子は無生物と言われるようなものが隠し持っていることが多い。
生きていないものが、ふと、生きてみえるようなときは、
ゼロ螺子を隠し持っていると思ってよい。
そういうものだ。
人形師が欲しがっているのは、多分それに間違いないだろうと螺子師は思った。
ただ、見つけるのは少々骨が折れそうだとも思った。
あまり大きくない螺子のことだ、目撃情報なんてないかもしれない。
それでも、螺子師はおのれのプライドにかけて螺子探しに出ることにした。
「休業中」
の看板をかけると、螺子師はふらりと螺子探しに出掛けた。