斜陽街で逢いましょう
18
螺子師は電脳中心にやってきた。
ここは斜陽街では比較的新しい店で、
他の店に比べると、少々明るい感じがする。
赤のネオン管で『電脳中心』と、なっており、
時折ネオンがじじっと音を立てている。
螺子師は扉を開けた。
店の中はコードが至る所からぶら下がっている。
12ピンのコード、25ピンのコード、電話のモジュラー…
それらが絡まって、何かの内蔵の壁のように有機質的な感じを醸し出していた。
店の主は奥にいた。
電脳娘々(でんのうにゃんにゃん)。ここの主の女性だ。
黄色と緑と灰色を足したような、古い中国の国民服をまとっており、ご丁寧に帽子までかぶっている。
長い髪はきれい三つ編みされていて、色は黒い。
目はゴーグルのようなものをかぶっており、確認することはできなかった。
そんな女性が、コードの壁の中、埋もれるようにしてそこに居た。
実際、埋もれていたのかもしれない。
「娘々さん」
螺子師が呼びかけると、娘々はこちらを見、ゴーグルを外した。
驚いたように目が丸くなり、次に微笑んだ。
「いらっしゃい、なんの御用かな?」
「螺子、探してるんだ」
娘々はまたびっくりした。
「螺子師が探すような螺子、あるの?」
「あるんだ。うん」
「そっかそっかー。螺子師も全部の螺子持ってる訳じゃないんだなー。うんうん」
「そういう事なんだ。情報、ある?」
「検索してみる」
そういうと、娘々はまたゴーグルをかけた。
コードに埋もれ、手を宙のコードに繋げた。
傍から見ると、コードに接続しているようにすらみえる。
実際、そうなのかもしれない。
つつっ、つつっ、という何かの信号音だけが響いた。
やがて、娘々はゴーグルをはずすと、
「ごめん、なかったよ…」
と、申し訳なさそうに謝った。
「いいんだ、そう簡単に見付かるとは思ってなかったよ」
螺子師は娘々を慰めると、また、螺子探しに出掛けた。