斜陽街で逢いましょう
19
螺子師は斜陽街一番街の病気屋にやってきた。
ここの主人とは仲が良い。
頭の螺子が緩んでいる状態と、病気の状態は良く似ているのだ。
病気屋はその原因が細菌やウイルスのとき、それをサンプリングして売る。
螺子師は調子の悪い螺子を締め直す。
そんな訳で、商売敵になることもなく、共存している。
扉を開けると、いつもの消毒薬の匂い。
ここは、何か細菌を逃がすたびに消毒している。
また何か逃がしたのかもしれない。
「参ったなぁ…」
ぬうっと出てきたのはここの主だ。
背が高く、熊のような風体をしている。
「また何か逃がしたの?」
悪びれることなく、螺子師が尋ねる。
「うん…電脳娘々にもらったウイルスだったんだけど…保存状態が良くなかったらしくてね…」
「電脳じゃ勝手が違うでしょ」
「あ、そうなんだ」
熊の病気屋は納得したらしい。
遅いんじゃないかと螺子師は思ったとか。
「で、螺子を探してるんだ…」
そんなこんなの世間話のあと、螺子師が本題を切り出す。
「螺子…」
「何か、情報でもない?」
「うーん…君が置いていった螺子だったら何本かあったけど…」
螺子師はそれらは把握している。
毒にも薬にもなり難い螺子だったはずだ。
一応それらの螺子を見せてもらったが、
螺子師の探す螺子は見つからなかった。
「やっぱりなかったわ」
「そうかぁ…」
「ともかく、ありがとう」
螺子師は礼を言うと、また、螺子探しに出掛けようとした。
しかし、ふと、あの壁に寄って行こうという気になった。
彼女と話したい気分になった。