斜陽街で逢いましょう
20


螺子師は例の壁にやってきた。
下にネズミ穴の空いた白い壁だ。
螺子師はそこに背をあずけて座る。
そうしていると落ち着くのだ。
歌が聞こえると、もっと落ち着くのだ。

壁の向こうの彼女とは、行動パターンが似ているのか…
今回も螺子師がやってきたとき、歌が聞こえた。
彼女がいる。
名前も知らない彼女が。
「やあ」
「どうも」
たわいない挨拶から話は始った。

「螺子を探しているんです」
螺子師が近況を話す。
「螺子?小さくて見つけにくいんじゃない?」
「特殊な螺子ですから、あればわかりますよ。そっちはどうです?」
壁の向こうの彼女は少し黙った。
そして、何かを決したように話し出した。
「知り合いが…大変なことになっているんだ…」
「大変、とは?」
彼女は黙ってしまった。
「あ、すみません、話したくないならいいんですよ。うん」
「そうじゃないんだ…なんというか、信じてもらえるかどうか…」
「信じますよ」
螺子師は断言した。

「知り合いが絵に食われかかっている?」
「信じられないでしょ?でも、僕にはそう見えたんだ…」
彼女はそう言うと黙った。
螺子師は彼女のような事件を先代から聞いたことがあった。
人に似た物が人に害をなす事件…
その対処法も知っていた。
螺子師はポケットをごそごそとすると、一本の古い螺子を取り出した。
「これ、使ってください」
螺子をネズミ穴から転がして渡す。
「これは…」
「これをその絵に食わせてください、そうすれば絵はただの絵に戻るはずです」
「この螺子が…?」
「僕を信じてください」
間があり
「信じよう」
彼女はそう答えた。


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