斜陽街で逢いましょう
24
螺子師はゼロ螺子を人形師に届けた。
人形師はとても喜んでくれた。
『誰かの役に立てたのが嬉しいんだ…』
確か彼女はそう言っていた。
彼女もこんな気分だったのだろうか?
決定的に違うのは、螺子師はそれが商売であること。
螺子師は報酬を受け取ると、人形師のもとをあとにした。
螺子師は、今回のことを妄想屋に話しに来た。
妄想屋は話を聞くのが好きらしい。
妄想ならもっと好きらしい。
とにかく、知らない仲ではないし、今回のことを妄想屋の夜羽に話に来た。
「壁の向こうに知り合いがいるんだ」
「へぇ…三番街にそんな壁があったんだ…」
「そう、それでね、壁の向こうの彼女とこんな話したんだ…」
夜羽は他人の話をよくテープレコーダーで録音する。
10年以上も前の型の古いレコーダーでカセットテープに録音する。
それを妄想として聞かせるのが仕事だ。
彼の場合、半分趣味なのかもしれない。
螺子師はそれを知っていた。
或いは自分の話も妄想として扱われるのかもしれない。
それでも、彼女と関わったということをどこかに残しておきたかった。
ゼロ螺子は商売道具だ。
現にもう納品してしまった。
何か、形に。
そういう思いもあって、妄想屋に話そうという気になったのかもしれない。
夜羽はそのあたりの心の匂いを嗅ぎ取ったようだ。
「プレゼントとか、してみたのかい?」
「プレゼント?」
「そう、贈り物だよ」
「知ってるよそんなこと…」
「なんだ知ってるんだ…贈り贈られた過去があったという印。それがプレゼントだと思うんだけど、どうかな?」
プレゼントとは考えていなかった。
「ありがとう夜羽。考えてみることにするよ」
「そうそう…」
席を立とうとする螺子師を夜羽が呼び止めた。
「廃ビルからお呼びだよ」
螺子師はいやーな予感がした。