斜陽街で逢いましょう
25


ここに来るのは気が進まない。
かといって、約束を破るのはもっといやだった。
だから、螺子師は廃ビルにやってきた。
呼び出したのは、多分、間違いなく…
「やーぁ」
気の抜けた呼び掛けをした、闇から滲むように現れた男、螺子ドロボウだった。

「やっぱり君ってば真面目だから来てくれると思ったよ」
「用件はなんだ…」
螺子師は不機嫌だった。
こいつに呼び出されるとろくなことがないからだ。
今にもレンチを取り出して相手を叩かん位不機嫌だ。
「それじゃ単刀直入がいいかな。うん」
「早く話せ」
「ゼロ螺子、手に入ったんでしょ?」
螺子師は少し驚いた。
壁のやり取りを見ていたのだろうか?
いや、この螺子ドロボウのことだ。
とぼけたふりして、様々なことを見越していることもある。
だから螺子師は嘘はつかないことにした。
「ああ、手に入った」

螺子ドロボウはニヤッと笑った。
「それってばやっぱり僕のおかげかな?」
「…さぁな」
「おかげだとしたら報酬が欲しいなー。なんてね」
いやな予感はこれか…螺子師は大きく溜息をついた。
「やらん。貴様でしゃしゃり出た所為で話が拗れ、壁の向こうの彼女は悲しんだかもしれないんだ。報酬なんてもってのほかだ」
「あ、やっぱり?」
螺子ドロボウは苦笑いした。
この男、何を考えているか分からない。
螺子師はそう思った。

螺子ドロボウはひとしきり笑った。
笑ったあと、螺子師に顔を近づけた。
「僕が欲しいのはね…」
「だからやらんといっている!」
「聞いて。僕が欲しいのはね…君の螺子…」
「!」
螺子ドロボウは真顔になった。
「君の理性の螺子を飛ばしてみたいんだ…」
螺子師は呆然とし、
螺子ドロボウはくっくっくと笑って闇に融けた。
「いつか理性を失った君を見てみたいね…そのくらい、大好きだよ…」
そうして、螺子ドロボウの気配も消えた。

螺子師はぼんやりとしていたが、
取り合えずこの一件は忘れてしまおうと思った。
思ったが、心のどこかに引っかかってしまった。
相変わらず、螺子ドロボウが何を考えているのかわからなかった。


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