斜陽街で逢いましょう
26
散々悩んだ挙げ句、螺子師は一体の人形をプレゼントすることにした。
螺子ぼーず。
幼い頃、先代の螺子師からもらったものだ。
苦楽を友にしてきた節のある、自分の分身のようなものだ。
そうしてプレゼントを拙い技術で包装し、
いつもの壁にやってくる。
と、いつもの壁の様子が違っていた。
壊れかかっている?
確実に外から壊れかかっている。
壊れたらどうなるのか…
繋がりがなくなってしまう。
早くこの人形を渡さなければ。
螺子師は走った。
走って、壁のもとへとやってきた。
彼女の気配を感じた。
「やあ」
「どうも」
いつものようにおしゃべりできない。
壁の軋む音がする。
「もうすぐ、ここは…」
「うん、修復される。穴もなくなるそうだよ…」
「そうですか…」
沈黙が降りた。
早く渡さなければという焦りと、何か話さなければという焦り。
螺子師はじりじりと焦っていた。
「これ、受け取ってください」
先に沈黙を破ったのは螺子師だった。
「これ…」
「螺子ぼーず、僕のお守りです」
不格好な螺子人形。
それが精いっぱいだった。
「ありがとう…僕からも贈り物あるんだ」
「え…?」
がさがさと音がし、小さな包みがネズミ穴から出てきた。
「拙いけど…」
「あ、ありがとうございます!」
「うん…」
何だかこれが最後ではないような気がした。
お互いの贈り物がお互いの手の中にある。
心はそこにある。
それで十分だ。
彼女とはそれきりだ。
壁は数日後、すっかり壊れてしまい、あとには何でもない空間が広がっていた。
彼女がいた証は、あのプレゼントにある。
螺子師はそれを新しいお守りにしたのだった。