斜陽街で逢いましょう
28


あるとき娘々は塔の屋上にやってきた。
それは娘々の神経を通した情報。
ディスプレイ越しなら別の情報になるのかもしれない。
とにかく娘々は塔の屋上のようなところへやってきた。

数日前までここに飴玉ネットワーカーがいたらしいという情報を掴んだからだ。

屋上では男が一人がログ掃除をしていた。
管理人なのかもしれない。
ログを見せてもらえないかと申し出たら、快諾された。
「ここは対戦の待合室なんですよ」
と、男は言う。
「ここから下っていって好きな部屋で対戦するんですよ」
「Candyは対戦に来てたの?」
「いや、変な奴でしたよ。対戦すれば勝てるのに、申し込まれても断ってたんですから…」
Candyとはあちこちで使われている、飴玉ネットワーカーのハンドルネームのようなものだ。
話しながら娘々はログを洗っていく。

「Candyは対戦が好きでなかった…」
「そうなんでしょうねぇ…何というか、チャットも好きでなかったようですよ」
「そうなの?」
「ええ、顔が見えて怖いと言い出して…」
「怖がってたんだ…」
「ええ…」

少しの間があり、娘々はログを洗い終えた。
「あなたも顔が見える性質ですか?」
男が訊ねてくる。
「うん。ワタシも顔が見えるの」
「だったら、Candyと気があうでしょうね」
娘々は笑った。
「だったらいいね」
男も苦笑いした。
「俺には楽しむ人の笑顔が見えないんですよ…」
男はそう言った。

娘々はログを男に返すと、またネットの上を探しに出掛けた。


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