斜陽街で逢いましょう
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娘々は三番街の教会へやってきた。
教会とは名ばかりの荒れ果てた場所だが、不思議とここへ来ると落ち着いた。
空気が澱んでいない所為だと彼女は理解していた。
その他に理由があるのかもしれないし、ないのかもしれない。

彼女は澱んでいない空気を大きく吸った。
そのままあくびへと繋げた。
霞を食う仙人のようだなと思った。
そういえば、自分の祖父はどうしているだろう?
自分と一緒に斜陽街に移り住んで、人とか関わるのが嫌だと番外地に居を構えているらしい。
占いを生業としているが、スカばかりなので、
スカ爺と呼ばれているそうだ。

娘々はポケットから飴玉を一つ取り出した。
包み紙を破くと、ぽいと口の中に放り込む。
そして、コロコロと口の中で転がす。
こうしてあいつも情報を嘗め回していただいた。
ふと、娘々は思った。
なんの疑いもなく口に入れている時点で危険だ、と。
飴玉ネットワーカーは疑う事を嫌う。
疑う事を知らないのかもしれない。
実質、情報を鵜呑みにしている。
悪意も、何もかもいっしょくたにして。
早く保護しなくちゃと思う。
それでも、情報がない。
情報がなければ手も足も出ない達磨のようなものだ。
娘々は飴玉をがりりとかじると、溜息を一つ漏らした。

「もどろうかな」
娘々はまだ重い腰をあげた。
疲労が少し蓄積しているようだ。
「洗い屋に行ってこようかなぁ…」
二番街の洗い屋。
何でも洗ってくれるらしい。
小腸でも胃袋でも。骨でも。
ちょっと骨を洗って欲しかったが、洗い屋は止めて、
電脳中心に戻って磁気治療をしようと決めた。
「データが吹っ飛ばないといいけど…」
危惧がない訳ではないらしい。


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