斜陽街で逢いましょう
32
娘々は鳥篭街に降り立った。
そこは黄昏藤色の世界。
境界が曖昧になる不思議な世界だった。
線路に面した幾つものマンション。
ベランダが鳥篭のように並んでいる。
あの一つ一つに誰かがいる。
娘々は線路を歩く。
娘々もここに隠れ家を持っている。
随分前に作って、そのままになっている。
ふと、自分の鳥篭を見てみたくなった。
「ラベンダー館の621号室…」
鍵を外し、ドアを開けると、少し広めの部屋が姿をあらわした。
やっぱり作ったときのまま、誰も訪れてはいないし、荒れてもいない。
宣伝をしなくちゃ誰もサイトには訪れないし、
隣近所同士でサイトを訪れあうことも少ない。
ここは娘々の隠れ家。
別に内容なんてなくてもいい。
羽を休めに作ったようなものだ。
ベランダは線路に面している。
娘々はぼんやりとベランダからの景色を見た。
藤色の世界。
その世界の中を曖昧な姿が歩いていった。
一瞬見落としそうになったが、残した痕跡でわかった。
飴玉ネットワーカーが線路を歩いていった。
娘々は飛び出していった。
娘々は飴玉ネットワーカーの前に降り立った。
「君は…だれ?」
「電脳娘々という」
「でんのうにゃんにゃん?」
「あなたを保護しに来た」
飴玉ネットワーカーは静かに威嚇した。
風が震えているような感覚。
一戦は避けられないようだ。