斜陽街で逢いましょう
35


娘々は目覚めた。
夢を見たような気もするが、よく覚えていなかった。
さて今日はどうしようかと思った。
メールをチェックするが、飴玉に関係ありそうなメールはなかった。

娘々はふらりと街に出た。
街に出るのはいい。
気分転換になるからだ。
娘々はそうして、番外地の自分の祖父に会いに行った。

娘々の祖父…通称スカ爺は番外地の八卦池のほとりに居を構えている。
この八卦池を覗き込むと、占いの結果が見えるらしい。
それがスカばかりなのでスカ爺と呼ばれているらしい。
スカ爺は八卦池を覗き込んでいた。
占いを頼みに来るものもいないだろうし、自分でも占っているのかもしれない。
「やはり来たか…」
スカ爺はしゃがれ声で娘々に語り掛ける。
「ゴーストと関わりになっておるな…」
「ゴースト…ま、そんなところかな」
スカ爺はネットに生きる者のことをゴーストと呼ぶ。
実体がないけれどそこにいる、だからゴーストらしい。
「そのゴーストは海を求めている…広い広い海を、包み込む海を…」
「海…ねぇ」
「海をゴーストに与えよ…」
「相変わらず無茶苦茶だな…」
娘々は呆れた。
けれど、スカ爺の言ったことをどこかに留めておこうとは思った。
たった一人の肉親だ。
自分が信じなくて誰が信じるのか。

娘々も八卦池のほとりに腰掛けて、池を覗き込んだ。
池は暗い闇を映し出している。
どこまで深いんだろう。
手を伸ばせば、そこから食われるような気がした。
娘々は池に映った自分を見る。
疲れた表情が映っていた。

「占い、アリガト」
娘々はそういって、その場をあとにした。
スカ爺は相変わらず、八卦池を覗き込んでいた。


戻る