斜陽街で逢いましょう
36


娘々は海を体感できるサイトにやってきた。
海といってもそこで感じられるのは深海。
深い深い、海の底だった。

娘々は海に沈む感覚が嫌いではない。
何かに帰るような、そんな感じがするからだ。
所詮バーチャル。
酸素ボンベも潜水艇もフローターもいらない。
娘々は海の底へ沈んでいった。

海の底には一艘の白く輝く船があった。
サイトの関係者が沈めたものらしい。
夢や憧れが詰まっているという。
夢や憧れを諦めるために沈めたとどこかで聞いた。
では、これがもう一度浮かぶとき、その時は…
沈められた夢が現実になるときなんだろうか?
早く浮かび上がるといいなと娘々は思った。

プランクトンの死骸が降り積もる。
マリンスノーといったか。
そこまで細かく設定してあることに、娘々は驚いた。
或いは…
マリンスノーの設定などなされていなくて、
これは自分の見ている妄想なのかもしれないと思った。
これが妄想ならば、自分の脳髄も捨てたものでもないなと思った。

娘々は海の底で横たわってみた。
地球の鼓動が聞こえた気がした。
母の鼓動。
胎児はこの様に安心を得るのかもしれない。

彼女はそろそろ浮かび上がろうと思った。
この子宮から外へ出ようと思った。
自分はうまれかわる。
そんな感覚を得たいと思った。
上へ、上へ。
だんだん明るくなり…
光に包まれ…
彼女は海から生まれた。

そんな感覚を得た。

「海…か」
スカ爺もそんな事言ってた。
娘々は波間に浮かんでいた。
しばらくぼんやりと考えていたが、
また、娘々は飴玉探しに飛んでいった。


戻る