斜陽街で逢いましょう
38
娘々は海に張り込みをかけることにした。
彼は海を目指していた。
密林と山道のサイトでそれだけはわかった。
ならば海を見張っていればおのずと彼に逢えるはず。
娘々はそう踏んでいた。
探すための目玉をあちこちに飛ばし、娘々は海辺に一人たたずんでいた。
膝を抱え、海を見詰める。
海は母の象徴という。
包み込むような母親。
海をめざす飴玉は、母に帰りたいのかもしれない。
娘々はそんな事を考えた。
そこまで思い付くと、娘々は遠隔操作でサーバーを一つ起動させた。
「どこまで海になれるかわからないけれど…」
娘々は自前のサーバーに海を作る気だった。
この海をコピーペーストしてもよかったが、もっと包み込むような海を作りたかった。
娘々が作業に没頭する。
女性は体内に海を抱えているという。
娘々も例外ではないはずと思っていた。
自分の海に彼を誘い込めないだろうか?
そうすれば誰も傷つかない。
飴玉も、他の人も。
娘々は信じていた。
飴玉は、人を傷付けることを好まないはず、と。
自前サーバーの海は随分出来上がった。
娘々はサーバーに飛び込んで海の感覚を体感する。
悪くはない。
そこまで確かめたとき、目玉から通信が入った。
八卦池からネットワークを介して、何かが海に向かってくると。
「来たみたいだね…」
今度こそ逃したくない。
飴玉ころころ転がった。
どこへ行く。
海へ行く。