テラコッタ色の屋根の下
03


辛くなったとき、アキはよく教会の裏庭に行った。
そこは大抵誰もこない。
行く必要がないからだ。
裏庭には、ぼうぼうとのびた草と、開かずの扉があった。
こんなものに用がある人間なんていなかった。
アキは、その開かずの扉を隣りにして壁にもたれかかっていた。
自然と、歌がこぼれることもあった。
アキはヴォーカリストではない。
それでも、こぼれる歌を止める気はなく、
涙の代わりと流れるままにしていた。

ここで、以前こんなことがあった。
「歌…好きなのですか?」
と言う声がした。
見ると、壁には数センチほどのネズミが空けたような穴があって、
そこから声がしていたようだった。
この壁のなから声がするということは、開かずの扉の向こう。
どんな人間がいるか分からない。
人間かすら分からない。
…それでも、声に邪気がなかったので…
アキは、
「うん、だいすき」
と、答えた。嘘偽りはなかった。

それ以来、アキはここによく訪れるようになった。
愚痴ることもある。
歌を歌うままにすることもある。
ネズミ穴を通して、その歌は壁の中に聞こえているらしい。
壁の中の人物は名乗らなかった。
アキもまた名乗っていない。

そこでも、そこには確かに友情があった。

辛くなると、アキはよくそこへ行った。
幸せなイチロウを見ているのが辛くなったとき。
キリエほど強くなれないと知ったとき。
そんな時、アキはよくそこへ行った…


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