テラコッタ色の屋根の下
05


ナナがいなくなって以来、イチロウは部屋に閉じこもるようになった。
誰が行っても扉を開けず、篭って何か作業をしているようだった。
悲しみを何かにぶつけているのかもしれない。
そんな憶測を言ったのはキリエだった。

アキは気になった。
イチロウが何をしているのか気になった。
ナナを突然失って何をしているのか…
絶望しているのか、祈っているのか…
知りたいと思った。
好意なのか、興味本位なのか…
それは自分にもわからなかった。

アキはイチロウの家にやってきた。
呼び鈴を鳴らしたが、誰も出てこなかった。
ここまでは予想していた。
しかし、扉に鍵がかかっていないのは予想していなかった。
「イチロウさん?」
戸惑う呼び掛けにこたえはない。
「イチロウさーん」
もう少し大きな声で呼んでも誰も出なかった。
それでも、イチロウはこの家の中にいるはず。
アキには奇妙な確信があった。

一つ一つ部屋を探す。
もともと広い家でないから、そこにはすぐに辿り着いた。
寝室だ。
扉は閉まっている。
しかし、鍵はついていなかった。
取り合えずアキはノックしてみた。
返事は…ない。
「イチロウさん、いるんでしょ?開けるよ…」
アキは扉を開けた。

イチロウはそこに居た。
ただ、激しく憔悴していて、一目ではイチロウと判別し難いくらいだった。

イチロウを憔悴させた元凶は、そこにあった。


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