テラコッタ色の屋根の下
07
教会の裏庭、いつもの壁。
アキはそこに背を預けて歌を歌っていた。
悲しいのかもしれない、イチロウに何もできないのが。
自然、歌う歌も悲しげなものになっていたかもしれない。
気配がした。
壁の向こうから。
行動パターンがよく似ているんだなとアキは思った。
「やあ」
「どうも」
壁越しにふたりは挨拶した。
壁の向こうの彼は、最近螺子探しをしているらしい。
小さくて見つけにくいだろうと思われたが、
彼はそれがわかるらしい。
螺子が特殊なのか。
彼の能力が特殊なのか。
或いはその両方か。
そのあたりはわからなかったが、
不思議な世界に彼は住んでいる。
それだけはわかった。
だから、あのことも話してみる気になった。
言っても信じてもらえるかが不安だったが…
「信じますよ」
彼はそう言ってくれた。
「知り合いが絵に食われかかっている?」
「信じられないでしょ?でも、僕にはそう見えたんだ…」
アキは見たままを話した。
あの絵はイチロウを食おうとしている。
イチロウの精神を。
ぼろぼろのイチロウ。
大好きなイチロウが…
アキが物思いにふけっていると、
壁のネズミ穴から一本の古い螺子が転がってきた。
「これ、使ってください」
壁の向こうの彼が言う。
「これをその絵に食わせてください、そうすれば絵はただの絵に戻るはずです」
「この螺子が…?」
「僕を信じてください」
アキは少し考え、
「信じよう」
彼女はそう答えた。
頼れるものはその螺子一本だけなのだ。