テラコッタ色の屋根の下
08
アキは螺子を持ってイチロウの家にやってきた。
頼りになるかならないかわからない一本の螺子を持って。
それでも信じるしかないのだ。
壁の向こうの彼がくれた螺子。
これで何が起こるのか…
アキは全然想像もできなかった。
扉を開けて寝室へと歩く。
やっぱり人気はなかった。
イチロウはきっと寝室へいるのだろうと思われたし、
実際そうであった。
イチロウはナナの肖像画の前に倒れていた。
「イチロウさん!」
駆け寄る。
息はまだあるようだ。
生きていることにほっとすると、
見間違えることなく、肖像画の口が耳まで裂けた。
バケモノ、アキはそう思った。
『邪魔をするんじゃない、こいつはワタシに嬉々として食われているのだから』
頭に声が響く。
根拠はないが、これがバケモノの声なのだろう。
「イチロウさんはお前なんかに食われたがっているんじゃない。ナナさんを求めているだけなんだ!」
『うるさいっ!』
身体に衝撃が走る。
どうにかこいつを…
そう思ったとき、ポケットにあるものを感じた。
螺子が一本。
これを食わせれば…そう言っていた。
アキは無言で螺子を取り出した。
一瞬、絵のナナがひるんだように見えた。
アキが絵にかけより、口のあたりに螺子を突き刺す。
「くあっ…」
絵の表情が苦悶のものとなる。
アキはそれでも螺子を押し込み続けた。
何も考えずに、口の中にねじ込んでいた。
だから、渡された古い螺子が新しいものに変わっていく様子は見えなかった。
やがてあたりは静かになった。
アキが気がつくと、肖像画は当たり前のナナの表情に戻っており、
アキの手には新品同様の螺子が握られていた。
「おわったの…かな」
アキは大きく溜息をついた。