テラコッタ色の屋根の下
11
壁の向こうの彼に話したらずいぶん楽になった気がした。
顔が見えない。
だから、懺悔室のように使っているのかもしれない。
利用…しているのだろうか?
あまりいい響きではない。
でも、自分だったらと考える。
自分がイチロウにそんな風に利用されているとしたら。
自分はそれでも喜ぶのかもしれない。
アキはしばらく部屋でぼんやりしていた。
そうしながら、起こった出来事を考えていた。
バケモノじみた絵画。
それを元に戻したことは本当によかったことなのだろうか?
変化した螺子を素直に渡してもよかったのだろうか?
そもそも、あの螺子にはどんな意味があったのか。
考えがどこまでもマイナスになろうとしたとき、ノックの音がした。
「アキさん、いますか?」
ユキヒロだ。
アキはおずおずと扉を開ける。
そこにはユキヒロとケイがいた。
「ニュースです」
ユキヒロはにっこりと笑った。
ナナが戻ってきた。
失踪していたときの記憶が一切ないことから、行方不明の理由はまったく分からない。
ただ、戻ってきた。
イチロウの喜びようはすごかったらしい。
生気のない顔に見る見る生気が溢れ、
震える手でナナを抱きしめ、
嬉し泣きに泣いたという。
キリエはそんなイチロウを複雑に見守りつつ、
「よかったっすね」
と、言ったらしい。
ユキヒロとケイから以上のことを聞いた。
よかったと、素直に思った。
これでイチロウは元に戻るだろう。
絵画の件とナナの戻ってきた件の関連は分からない。
けれどナナは戻ってきて、
イチロウはそれを喜んでいる。
笑顔が戻って、よかったと思った。