テラコッタ色の屋根の下
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壁の向こうの彼に話したらずいぶん楽になった気がした。
顔が見えない。
だから、懺悔室のように使っているのかもしれない。
利用…しているのだろうか?
あまりいい響きではない。
でも、自分だったらと考える。
自分がイチロウにそんな風に利用されているとしたら。
自分はそれでも喜ぶのかもしれない。

アキはしばらく部屋でぼんやりしていた。
そうしながら、起こった出来事を考えていた。
バケモノじみた絵画。
それを元に戻したことは本当によかったことなのだろうか?
変化した螺子を素直に渡してもよかったのだろうか?
そもそも、あの螺子にはどんな意味があったのか。
考えがどこまでもマイナスになろうとしたとき、ノックの音がした。
「アキさん、いますか?」
ユキヒロだ。
アキはおずおずと扉を開ける。
そこにはユキヒロとケイがいた。
「ニュースです」
ユキヒロはにっこりと笑った。

ナナが戻ってきた。
失踪していたときの記憶が一切ないことから、行方不明の理由はまったく分からない。
ただ、戻ってきた。
イチロウの喜びようはすごかったらしい。
生気のない顔に見る見る生気が溢れ、
震える手でナナを抱きしめ、
嬉し泣きに泣いたという。
キリエはそんなイチロウを複雑に見守りつつ、
「よかったっすね」
と、言ったらしい。

ユキヒロとケイから以上のことを聞いた。
よかったと、素直に思った。
これでイチロウは元に戻るだろう。
絵画の件とナナの戻ってきた件の関連は分からない。
けれどナナは戻ってきて、
イチロウはそれを喜んでいる。

笑顔が戻って、よかったと思った。


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