白の空
03


数日が過ぎた。
その間に、彼はしゃべれるようになった。
彼はギアビスに「レオン」という名前をもらった。
名前の由来は特にないらしい。
ただ、顔を見ていたら思い付いた、とギアビスは言っていた。

この数日の間、彼等は…特にギアビスは良く話した。
レオンはどこかからやってきた。
そして記憶が無い。
ならば、思い付く限りの話をして、何かが記憶に引っかかれば…
そう配慮してのことらしかった。

ある日。
海岸に船が来ていた。
「そういえばどこかの某さんが、資料使うとか言ってたような…」
ギアビスはおぼろげに思い出した。
どこかの国の某大佐は、ギアビスの案内で目的の資料を見つけたようだ。
何代も前の一族の誰かの本。
ギアビスにはその程度の認識しかない。
だが、ギアビス一族の書物は、一旦島を出ればこの上ない資料になるのだ。
武道を極めた者もいた。
料理を極めた者もいた。
建築を極めた者もいた。
この島にはそんな資料が眠っているのである。

「君のいたどこかから、この船が来たのかな…」
海風は柔らかに白い髪を撫でる。
レオンは黙っている。
自分がどこからきたのか、まったく思い出せないのだ。
船は海岸線に向かい小さくなって…やがて見えなくなった。
「ゆっくり思い出せばいいさ」
ギアビスは微笑んだ。
「それはそうかもしれないが…」
「僕も探し物が出来たんだ、君の記憶のように。ゆっくりいこう。急ぐ事無いさ…」
ギアビスは歌うように呟いた。
レオンは再び、黙った。


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