白の空
06
ギアビスがある程度飛べるようになってしばらくした。
あれからギアビスは尻餅をついていない。
落ちそうになると、レオンが支えてくれるようになったのだ。
ギアビスも…レオン自身も。
そういう行動の変化の意味がわからなかった。
もっとも、考えなかっただけかもしれない。
そうして、ギアビスがある程度乗れるようになって。
この飛行が成功したらレオンの番、と、した日のことだった。
ギアビスによる最終調整である。
「これで、高度を上げて成功したら君の番ね」
ギアビスはいつものようにエンジンをかける。
妙な板も洗練された形になり、これで空を飛ぶと言われて、納得いく出来になっていた。
きゅいいいい…と、機械が唸りを上げる。
草原が放射状になびく。
板とギアビスがふわりと浮かぶ。
「よしっ」
ギアビスが小さく呟く。
ここから高度を上げる。
ギアビスは足でスイッチをいれると、板からの風が強くなった。
高度が上がる。
バランスは崩れない。
成功だ。
ギアビスは空をぐるりと回った。
それはまるで白い鳥が空をめぐっているかのようだった。
レオンは眼を細めた。
ギアビスの背に、白い翼があったように見えた。
あくる日から、レオンの空飛びの特訓が始った。
大抵の調整はギアビスがしていたため、大きくバランスが崩れる事はなかった。
「君と一緒に空を駆けたいんだ」
ギアビスは口癖のように言っていた。
その度にレオンは思う。
「俺も…」と。
記憶は相変わらず戻らない。
もうレオンは焦っていなかった。
戻そうと思わない記憶。
目の前の大切な人。
そう、ギアビスは命の恩人だけでなく…
今のレオンの記憶の大半を占める大切な人になっていた。
それでも…
ギアビスが空を駆けるたび、脳で何かが引っかかっている感じがしていた。