白の空
09


穏やかに、時間は過ぎていく。
翼と、エアボードで島の空を駆ける。
燃料が続けば海の上も飛ぶ。
生活に必要な作業以外はそうして空を飛んですごした。

レオンは何か思い出しかけていた。
はじめはそんなことにすら気がつかないほどの微かな感覚であったが、
ギアビスの翼を見て確信した。
自分は何かを思い出しかけてしまっている。
思い出したらここにはいられないような気がした。
この、穏やかな時間から、はじき出される気がした。

「ねぇ、見てよ」
ある日…ギアビスは妙な物をまたこしらえたらしい。
見るとそれは小さな箱で…装飾の薄い、けれども可愛らしい箱だった。
「オルゴールなんだ、これ」
箱の蓋を開けると、かすかなメロディが流れる。
オルゴール、オルゴール…
思い出してはいけないキーワード…
レオンは頭を抱えた。
割れるように痛かった。
「レオンっ!」
ギアビスが叫び声を上げたような気がした。

眼を覚ましたのは、ベッドの上だった。
オルゴール、そう、オルゴールの音で頭が痛くなって…
多分気を失ったのだろう。
あの時のようにベッドの上だなと思った。
ギアビスと初めて逢ったときも、そうだった。
その時も自分は扉から出て来て気を失っていて…
「扉?」
今確かに、自分の知らない言葉が頭をかすめた。
扉、そう、扉といっていた。

この島に扉はなかったか。
その扉の向こう、自分の記憶がある。
レオンは根拠の無い確証を持った。


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