白の空
10


草原の中に、扉はあった。
鋼鉄製の、重そうな扉だ。
ただ一種異様なのは、草原の中に、扉だけが立っている事だろう。
扉だけ。風景を切り取って貼ったように立っていた。

ここには、どういう訳だか来なかった。
ギアビスが来させまいとしていたのかもしれない。
レオンが無意識に近づかないようにしていたのかもしれない。
それでもレオンは来てしまった。
記憶はむしろ取り戻したくはない。
ギアビスとの生活が…かけがえのないものだから。
それでも…
記憶の底で決着がついていない事がある。
レオンはそんな感じを抱いていた。

時刻は明け方。
ようよう明けゆく空。
白い空だ。
レオンは扉の前にいた。
ギアビスは起こさないように来た。
起きていたところで、話すべき事が見つからなかったからだ。
別れを告げたくはなかった。
帰ってこないかもしれない、そんなことも言いたくなかった。
決着をつけたらすぐ戻る。
すぐに戻るはずだから、別れも何も告げずに、気付かれずに来たはずだった。

「レオン」
後ろから、声がした。
振り返らなくてもわかる、声の主。
「行くんだね…」
「ああ」
振り返らずに肯定した。
レオンは扉に手をかけた。
扉は鋼鉄相応の重みを見せ…ゆっくりと開いた。
「いってくる…」
「うん…」
レオンは振り返らなかった。
ギアビスは引き止めなかった。


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