ある時の話である。
いつものように夜羽が妄想のテープを再生させようとした時である。

「さてと、妄想のテープは…」
夜羽は鞄の中をごそごそとし始めた。
一度動きが止まり、にわかに速くごそごそとする。
「ないっ!」
夜羽にしては珍しく大声を上げた。
「妄想が一本足りない!」

君は夜羽に頼まれて、妄想テープを探しに、斜陽街へと出ていった。
「斜陽街ははじめてだよね…ならば、この街でも自分の役割が見付かるかもしれないしさ…」
なかば押し付けがましい夜羽の台詞が思い出されたりもした。
「頼むよっ!帰ってきたら一杯おごるから!」

君がぼんやりと立っていると、バーの客と肩がぶつかった。
「ぼやっとすんな!…あん?お前、電網系だな?一つ言っとくが、この街で電網系が嫌われないためにゃ、『戻る』を使わないこった。ま、気付かれないからいいだろうとか思ってるんならそれでもいいさ…ただし、その結果がどうであれ、俺は関係ないけどな…『戻る』事が許されているのは…一個所だけだ…」
客はなかばひとり言のように言って、バーの席についた。

バーのドアの向こうは、古ぼけた懐かしい感じの奇妙な街並み…斜陽街だった。


斜陽街へようこそ!