バーまで神屋を連れてくると、唐突に夜羽が訊ねてきた。
「いや、失礼ながら僕は名前を聞かない主義だったんだけどね…君の名前ならば聞いてもいいかな…なんて思ってさ…
君…」
夜羽が君の名を呼んだ。
そして神屋に向き直り、
「さて、神屋さん。そのテープの中には、女神がいるんでしたね…」
「女神なんてよぶな!女神様だ!」
「失礼、女神様がいるんでしたね」
「ああそうだ。このお声は女神様の声なんだ…」
夜羽の席では、レコーダーが静かに廻っている。
夜羽の気分次第では、近いうちに神屋の妄想が並ぶ事だろう。
夜羽が神屋を相手にしている間、君は別席でぼんやりとしていた。
しばらくして、
「お疲れ」
と、夜羽が君の肩を叩き、何か飲み物を差し出した。
「ここのお勧め。一応、ノンアルコールだよ」
夜羽が笑いながら君の席についた。
「斜陽街を歩けるみたいだね…君ならきっと街に気に入られるんじゃないかと思ったんだ。良きにしろ悪しきにしろ…君が望む望まずに関わらず…ね…」
意味深に夜羽が笑った。
「
君はやっぱり、この街に気に入られたみたいだね…」
夜羽は自分のグラスをもつと、
「さて、新たな街の住人に…乾杯!」
グラスが軽い音を立てた。
君のこの街での役割は『
』に決定をした。
君は君だ。それ以上でもそれ以下でもない。君はそれなりにこの街で生きていける。
つまりそういう事なのだ。
ではまた、斜陽街で逢いましょう…
THE END