病気屋という看板が出ている。
病院だろうかと考えたが、取り合えず扉を開けて中に入っていった。
開けたとたん消毒薬の匂い。
やっぱり病院の別名だろうか?
「参ったなぁ…」と、白衣の男が奥からぬうっと出てきた。
「珍しい細菌だったのに…まぁいいか、あとで仕入れ直せば…」
と、手に持っていたシャーレと綿をつまんだピンセットを卓上に置いた。
そこでようやく君に気がつき、
「病気持ち?」
と、訊いてきたものだ。
病気屋の男…何だかとても背が高く、熊のような風体だ…が、しみじみと君の体を見る。
「電網系かぁ…じゃあ、サンプリングできないなぁ…」
と、残念そうに呟いた。
君はここは何の店なのかを訊ねた。
「ここは病気屋。いらない病気を買い取って、その病気を必要とする人に分けてあげるんだ…さっきは…うっかりシャーレを壊してしまってねぇ…珍しいウイルスがバラバラ撒かれてしまったんだ…それで、あわてて消毒薬をまいたんだけど…」
入店時の消毒薬の匂いはそれだったのか…。君は納得した。
「電網ウイルスじゃないから安心して。これは生体系ウイルスだからね…」
熊のような白衣の男はニッと笑った。
ふと、君は疑問を持った。病気を欲しがる人なんかいるのだろうか?
それを問いかけると、病気屋は悪びることなく答えてくれた。
「仮病がばれやすい方…どうしても明日はやすみたい方…需要は結構あるんですよ。近所の熱屋で熱を上げ下げしてもらえれば、病気による都合をいくらでも造る事が出来るんですよ。便利でしょ」
ここにはそんな商売もあるものだと、君は納得した。
「もし、持病があって、ここに電網ではなく生体でこれる場合は僕がその病気サンプルしますから。ま、ごひいきに…」
そういえば、と、君は思い出した。夜羽の妄想テープを探しているのだ。
病気屋の主人はそれについては心当たりがないようだ。
「熱屋が何か知っているみたいですしね…伺ってみましたか?」
君は病気屋をあとにし、斜陽街へと出ていった。
とりあえず斜陽街を歩く