君はとりあえず斜陽街へと出た。
占い屋独特の香の匂いがまだ染み付いているような気もしたが、
気にしないように街を歩いた。

君は不意に誰かに呼び止められた。
振り向くとそこには7.8歳くらいの女の子が花篭を持って立っていた。
「お花いりませんか?」
お花と言っているその篭は、実際、秋桜のみで埋め尽くされている。
「このお花は、あなたの忘れたくなるものを忘れさせてくれるんです」
どこかで聞いたことのある様な話だ。
「あらっ?電網系でしたの?電網系じゃ『忘れる』はとんでもない事を引き起こしかねませんから…ごめんなさい。それじゃ…」
少女は見かけによらず大人びた口調で君に謝ると、
「お花いかがですか…」
と、また、花を売りに歩いた。

「データの初期化と混同してるんだよ。彼女は」
また、死角から声がした。
抑揚というもの、感情というものがまるきりかけた声だ。
「この街の全部の人間が、電網系を理解しているとは言い難いからな。電網系生体系どっちでもいいという人間もいるし…ここは至極曖昧な街なんだよ…」
そうやって声をかけてきた男は、手の中に収まるほど小さなガラスの瓶を大事そうに守りながら、去っていった。


とりあえず斜陽街を歩く