番外編 妄想


「はいっ!ネギぼーずです」
テープはいきなり元気な声から始まった。
「今日は夜羽さんから、『夜羽妄想哲学』を聞き出したいと思います!」
ハイテンションな声、
そして夜羽は複雑な表情をしているに違いない。

「それでは夜羽さん、妄想屋をはじめたきっかけは?」
「…テープレコーダーがあって、そこに妄想やうわごとを録音したら面白いだろうと思った。それだけです」
「フンフン…で、妄想屋をやってみてどうですか?」
「生き物を相手にしている感じ…だね。しかもとらえどころのない生き物を」
「ほうほう…妄想は生き物ですか…」
「かもね」

「では、次の質問に入りましょう。これはペンネーム真諦さんからの質問…」
「なんだ、葉書でも来てたのか?」
「いえ、真諦(マタイ)は僕の他の名前です」
「ラジオじゃあるまいし…」
「その方がインタビューっぽいでしょ♪」
ネギぼーずの咳払いが一つ。
「質問に入ります。ええと、どうしてテープレコーダーなのですか?今ならもっと質のいいデジタルもあるでしょう?…てなことです。さて、どうしてでしょう」
「僕はアナログ派なんだ。数字の羅列だけは嫌いなんでね」
「それだけ?」
「それだけ」
夜羽は少し笑ったらしい

「次の質問ですペンネーム…いいや考えるの面倒だからさんからいただきました葉書…」
「即興ペンネームにも程があるぞ」
「いいでしょ別に、ええと、妄想と現実の区別はどこでつければいいのでしょうか、とのことです」
「…ふーむ…」
夜羽は少し考え込んだ。そして
「明確な区別はないと思うよ。どっかのバンドも歌ってただろう『君が想えば多分それが”真実”』そういうことだと、僕も考える」
「結構、夜羽さんって流行にも敏感ですか?」
「さあ…とにかく、『おまえはおかしい』と、言われたとか『妄想か現実か分からない』とか『こんな事は現実で起こり得ない』いう症状が出たら僕に聞かせてくれ。そういう場合、大抵妄想だ」
「じゃあ、妄想テープの中に現実が混じることもあるわけで?」
「だと思うよ」

「では最後に。夜羽さんは妄想を何だとお考えですか?」
「さっきもちょっと触れたけど、妄想は生き物…かな」
「ではどんな生き物ですか?」
「多分ね…たとえるなら人の脳髄に寄生して育つ生き物、そんな感じだね」
「寄生虫みたいな…」
「そう、寄生虫のサンプルをとって、人に見せる。多分それが僕の妄想屋。これが全部僕の妄想かもしれないけど、僕は結構心地いいし、これはこれでいいと思う」
「結論が出たところで、この辺で今回のインタビューを締めくくらせていただきます。夜羽さん、何か一言」
「妄想は悪いものじゃない。うまく付き合えば有益になる」
「今日は本当にどうもありがとうございました」
「いやいや…大した事は話していないよ」
そして二人は笑った

テープはここで終わっていた


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