番外編 雑想


これは、出し物にならない妄想の編集版なんだけど、
良かったら聞くかい?
一応、夜羽はそう前置きをした。

「大体、使えないという基準は、どこかからの盗作妄想である可能性…」
テープは静かに廻り…
「あーっ!お前がおれのチャームポイントを盗んだんだなコンチクショー!」
「落ち着いてっ!この人は違うよ!」
がたがたとテーブルや椅子が乱暴に扱われる音、
そして、テープはぶつっと途切れる。

「次も」
途切れから空白。そして再生。
「では、話してください」
そして女性の声
「いつかきっと、白馬に乗った王子様が私を迎えに来てくれるの…」
王子様との生活をああだこうだ言っている途中で、テープは途切れた。

「これもそうなんだけど…どうも、コミケとかいうものに行っている人が、この手の妄想が多いみたいで…」
さらさら流れるテープから夜羽の声。
「さて、話してください。あなたの妄想を」
いきなり、ハイテンションな声。
「妄想なんかじゃないわっ!いい?あの二人はデキてるの!愛し合ってるの!」
「はぁ…」
「でも、男同士だから絶対に結ばれない愛…ああ、耽美だわ…」
このあとも漫画のキャラクターの名前とカップリングを羅列して、テープが途切れる。
「このテープは編集するのに苦労したよ。延々と聞かされたんだから…次のもそうだ」

「では、あなたの妄想を聞きましょうか」
「妄想なんかじゃない。そもそも、エヴァというものは…」
からはじまり、夜羽の声はまったく挟まずに、延々と男の声。
「…最近のアニメは…」
と、また話題を変えて語る。
と、唐突に途切れる。
「このあたりでげんなりしてきたんだ。編集するにあたり、そういうわけでカット。本当はあの時、この2倍は話していたんだ」
思い出すのも嫌そうに夜羽は話す。

唐突に、テープから声が再生される。
「だから、これは妄想などではなく、れっきとした事実なんだ!」
「マガジンでしたっけ?それに載っているからといって…」
「何を言う!ノストラダムスは真実を語っている!その証拠に…」
証拠となる(?)天変地異の数々を彼は語り続ける。
「そして1999年。彼の預言通りに…」
たぶん、男は身振り手振りを交えて1999年の天変地異を表現している。
テープのその途中で途切れる。
「語る人は苦手なんですよ…まったく…」

「このテープは次で最後」
空白から、再生。
「あがらないっ!原稿が上がらない!ネタがつきた!」
「漫画家さんですか?小説家?」
人が近づいてくる足音。パタパタと。
「あ、すみません。この人、自分が小説家だと思い込んでいるらしくて…すみません。ご迷惑をおかけしました。本当に…。行くわよ、あなた」
うわごとを続ける夫を連れて、女性は去っていった。

「使えない妄想ばかりだったろ?」
夜羽は苦笑い。
「また溜まったら、編集して出してみようか?…冗談だよ」
テープは巻き戻され、
レコーダーから取り出された。


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