番外編 聖夜


キリストが生誕し、聖ニコラウスもどきが町を闊歩するその時期…
まぁ…これはその時期の、番外編だよ

夜羽はテープを再生させた。

「で、さっき日付が変わったばかりだけど、…君のそれは何杯め?」
夜羽の声がする。
周囲はがやがやと騒々しい。
「ええやん、ワイの酒や。ワイが何杯飲もうとも、オンドレには関係あらへん」
「いくらなんでも、限度というものが…」
「飲みたい奴には飲ませておけばぁ?」
「ネギぼーずさん…突き放しますね…」
「騒ぐ口実が欲しいだけなんだよ。みんな。この酒屋さんの場合は、飲む口実のようだけど…」
「飲み過ぎはよくないですよ…」
「それ以前に、酒屋の旦那、天下のクリスマスに日本酒というのが解せないな…」
「なんや?ワイの嗜好にケチつけるんかい?」
「ネギはそんな事に関与しませぇん」
「はいはい…お二方…あまり羽目を外さない程度にしてくださいね…」

「…で、なんでテープまわしてるわけ?」
この声は、ネギぼーずらしい。
「妄想の一つも拾えたら良いかなぁ…とか」
「拾えそう?」
「どうでしょう?騒々しすぎて拾えないかも」
「古いもんなぁ…そのレコーダーも何年もの?」
「気がついたら僕のものでした。古い事は確かですね」
がやがやとした喧騒。
「妄想、一つも拾えなかったら、このテープ、どうするんだ?」
「そうですね…それでも取っておきましょうか。まぁ…パーティの記念として」
「よくわからん記念だな…」
「それでいいんですよ」

「オンドレら、こないなとこでしみったれとんやあらへん!ほれ、飲めや飲めや」
ドンッと何かが置かれる音。
「僕はきついものは飲まない主義なんです」
「あー…ネギもきついのはパス…」
「こんのヘタレがぁ!」
酒屋は激昂したらしい、
が、そこへ今まで会話に参加していなかった声が入った。
「そのアルコール、いただいてもよろしいかな?」
「へ?」
呆気に取られた酒屋の声。
「どうぞ。僕達はいただきませんし…」
「ありがとう。それでは…」
会話が途切れた。
喧騒の中でも聞こえる、喉を鳴らす音。
「ふぅ…ごちそうさま」
「オッサン、ええ飲みっぷりやなぁ…」
「まだまだ、夜は長いんだ。この程度気付けほどにしかならんよ」
声の主は豪快に笑った。

「もう一杯、いかがですか?僕がおごりますよ」
声の主は夜羽のその申し出を
「いや、まだまわらなくちゃいけないところがあるのでね…私はこれで失礼させてもらうよ」
と、断った。
「なんや、宴会廻りかいな」
「まぁ…仕事だよ。今夜中のね…」
そして、
「全ての良い子に、メリー・クリスマス!Ho−Ho!」
と、声の主は去っていった。

「サンタもどきか…?」
「いや、本人はそうだと思っているんですよ。多分ね」
「フィンランド公認とかじゃなくて?」
「そう思えば、その人にとってそれが真実。彼は彼の中でサンタクロースなんですよ」
「サンタなのに何もくれなかったやん…」
「いえ…」
夜羽はテープレコーダーのマイク部分を叩いたらしい。
「確かに『ここ』にいただきました」
夜羽がくすりと笑い、
「さ、飲みましょうか。イヴとクリスマスの間の夜に…」
と、促した。

テープはここで終わっていた。

まぁ…たまにはこんなのもいいでしょう…
とだけ、言い、夜羽はそれを結びにした。


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