番外編 対話


あんまり妄想とは言い難いかもだけど…
まぁ、出ている限りでもよくあること。
夜羽はどこかいい訳がましく言った。

再生は静かにはじまった。

「取り合えず一年」
「おめでと、乾杯」
グラスの触れる音。

「よく続いたと思わない?」
「ネギさんこそ、そう想ってるんじゃないですか?」
「まぁね…ネギのはこと称したホームページができてから一年…」
「妄想屋もここではじめて一年…」
「お互い飽きもせず似たようなことをしていた」
ネギが自分で言って笑った。
夜羽も笑った。

「世紀末なんて言われて久しいけど…妄想屋から見てどうだった?」
「どういうことがです?」
「この一年とか。大騒ぎする輩とか…いろいろと」
夜羽はちょっと考えた。
「滑稽でもありますが…そういう要素を取り込みやすい体質ができているのでしょうね…」
「誰に?」
「現代日本人に」
「現代日本人かー…僕もそうなんだけどね」
ネギは多分苦笑いした。
「要素を取り込み、妄想の種にする…他の種にする事も、吐き出すこともせず、不安ばかり取り込んで種にする…ゴシップ・デマ…溢れる情報…それらのひずみから妄想は生れる…」
「支離滅裂だぞ…それ…」
夜羽は多分にやっとした。
「あなたがそうであるように、僕も感覚でものを話すんです」
「通じにくいぞ…それって」
「通じさせるのが、物書きの腕の見せ所でしょう?」
夜羽は笑った。

「最近、妄想渦巻いて…僕が危惧することがあるんですよ」
「何?妄想がいっぱいあるのは商売になるからいいんじゃないの?」
「いえいえ…」
夜羽は柔らかく否定した。
「何事も過剰はいけません…」
「まぁそれはそうなんだろうけど…」
「僕が危惧してるのは、どうも、『殺す』というのと、かなり近い妄想って…このところ増えているような気がするんですよね…」
「殺意?」
「さぁ…?でも、妄想と付き合いきれなくて、飲まれたりすることだってあることを考えると…殺すことを妄想に持ち続けるのはしんどいですね…」
「妄想は、露見しない限り、止めようないからな…」
「結局、他人がいくら気になってはいても、そういうところは『どうでもいい』のでしょう…」
夜羽はグラスをとったらしい。
「だから歪む。だから、妄想はいつだって絶えない…」
夜羽はかすかに喉を潤す。

「疲れてるんじゃないの?」
「かも、しれませんね…」
「飲みな…うん」
ボトルから液体の流れる心地よい音がする。
再び喉を潤す音。
そして、溜息
「僕が御役御免になることはないにしても…もう少し、苦しくならない妄想はないのかな…」
「君が妄想を選べばいいんじゃないか?」
「いえ…僕は妄想を選んでられませんよ…僕は妄想と誰かの境界。妄想がある限り、僕が境界にならなくちゃいけないんですよ…それが僕のいる意味なのかもしれません…」

夜羽はテープを止めた。

酔いが廻って、どうでもいいこと話し出しそうだからここでとめた。
あんまり、自分のことはこれ以上はなしたくないんだ…
夜羽は複雑な笑いを浮かべた。


妄想屋に戻る