テープ31 探す


「探求心は何歳になっても忘れちゃいけないと思うんだ…」
呟く夜羽の視線は、帽子の影になっていてわからない。
「これは、どこまでも探す妄想…」
暗がりの中で、再生のボタンが押された。

「僕は…探しています…」
「何を探していますか?」
「探すものを探しています」
テープの冒頭、客と夜羽のやり取りだ。
「僕はずっと探しているんです」
「その、探すべきものを?」
「はい、僕はきっと探すために生まれたのだろうと思います。だって、こんなにも探したいのですから…」
「なるほど…」
取り合えず夜羽は肯定をした。

「失礼ですが、御職業は探偵か刑事でも…」
「いえ、学生です」
「将来そのような職に就くような予定で?」
「いえ、刑事も探偵も、探すより暴く職ですから、僕には向かないでしょう」
「では、将来は何になりたいのですか?」
「わからないです。でも、何かをいつも探している職業になりたいです」
「ハテ…どんな職業があるでしょうねぇ…」
すると客は妙に嬉しそうに、
「じゃ、まずはそれを探してみよう」
と、言った。

夜羽が切り出す。
「さて…あなたが何かを探すということにとりつかれたのは、何がきっかけですか?」
「妄想屋さんだから、良く聞くとは思いますが…夢…です」
「夢…たしかに、良く聞きますね。では、どんな夢を?」
客が記憶をたどる。
「僕はデパートにいます。本や雑貨なんかがたくさんあるんです。僕は何かを探すように言いつけられていて、そこらを駆け回って探しているんです。それが、とても、楽しいんです」
「そのデパートの夢がきっかけだと…」
「いえ、デパートだけではなく、古い屋敷や水族館、見なれない街なども夢に見て、その都度、僕は何かを楽しく探しているんです。だから、『ああ、僕は探しているのが一番性に合っている』と、思い至ったのです」
「探しているのが楽しいから?」
「そうですね。楽しくないことが性に合ってることって、あんまり好きじゃありませんし…」
客はそこで言葉を区切り、
「やっぱり僕は探すために生まれたんですよ…」
そう言った。

不意に客が話し出した
「逆に…」
「逆に?」
「物のない空間は不安でしょうがないですね…」
「どういうことでしょう?」
夜羽が問う。
「物がたくさんある中から、僕は探す物を探し当てる。でも、何にも物のない中には、僕の探す物があるのかどうかすらわからない…空虚は不安ですね…」
「なるほど…からっぽはあなたの探す意味を失わせる…と」
「そうですね。だから、物がたくさんないと不安なんです。物がたくさんあると、『この中に僕の探しているものがきっとある』って、思えるんですよね…」
「ふむ…」

「僕は何かを探すために生まれた…特に探す能力が秀でているわけじゃない。でも、僕は何かを探すために生まれたんです…」

客のこの一言を最後に、テープの録音は止まっていた。

「このあと、僕は『探し屋でもはじめたらどうかな?』って勧めてみたんだ。そしたら彼はすごく乗り気でね…」
テープは巻き戻されている。
「どこかで『探し屋』を見つけたら、探してもらうといいかもね。きっと彼は、探すために生まれてきたんだろうから…」
夜羽は帽子の影から宙をみている。相変わらずその視線はわからない。


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