テープ55 電網3


電網から僕こと妄想屋に接する事ができるのは、
実は電網用に変換をしてくれるというか…ろ過というか、フィルターを通す所為なんだ。
今回は、あんまり質のよくない、フィルターと電網のお話。

夜羽はどこか楽しそうにテープの再生をはじめた。

「…で、僕の事、質の悪いフィルターとか言うんじゃないかい?」
「さぁ…ネギぼーずさんには感謝していますよ。仮にもお客を増やしていただいているわけですし…まぁ、もう少し質のいいフィルターなら、言う事ないんですけど」
「どーせ僕は、三流フィルターですよ」
憮然としたネギぼーずの声がする。
「それを言うならば、僕も三流妄想屋ですし…」
「自称だろ?」
「僕が思えばそれが真実です」
妙にきっぱりと夜羽は言った。

「質はともあれ、フィルターを通さない事には、僕等は電網系に接する事が出来ないのは確かですし…」
夜羽がひとり言のように呟いた。
「質はともあれというのが気に入らないけど、確かにそうだしね。斜陽街や妄想屋は僕を通さないと電網に触れる事は出来ない。逆に言えば、僕というフィルターがない事には、斜陽街も妄想屋夜羽君も電網から隔絶されるわけで…」
「そしたら、また閑散としますね…」
「今でも十分閑散としているじゃないか」
夜羽がその言葉を受けて、力なく笑ったらしい。

「僕はフィルター。電網系と斜陽街を互換する…」
「電網というもの自体が、境界曖昧の代物ですからね。こんな質の悪いフィルターでも、別の場所への扉を簡単に開く事ができます」
「追随経験の妄想か?他人が『これ』ということをした。その文章を読んで、自分もそうした気になる…」
「そのくらいの事をさせるフィルターであってほしいですね…妄想屋の僕としては」
「むー…」
ネギぼーずがうなる。
「折角僕が妄想を録音しても、ネギぼーずさんがちゃんと電網の上に変換して置いてくれない事には、どんな妄想を聞いても…ただでさえ三流なのに、それ以下に陥りますよ。まったく」
「どうせ言語にしか変換できないんだから…僕は…」
「そうですよねぇ…映像や音声を置く事ができないんですよねぇ…」
「だから必死なんじゃないか。僕の少ないボキャブラリーでどれだけ電網とここを繋げる事ができるか。毎度毎度大変なんだから…」
ブツブツとネギぼーずが呟く。
「でも、ここと直接繋ぐ事ができるフィルターは今のところネギぼーずさんだけですからね。嫌がってもしばらくは続けてもらいますよ。『ここ』のフィルターを…」
「電網が気に入ったのか?」
夜羽が含み笑いを漏らした。
「ええ…これだけ妄想の渦巻いた世界も、これだけ広がりを持つ世界も、ある意味時間を超えられる世界も…僕は気に入りましたね。僕という存在を、何の疑問もなく受け入れる事の出来る世界。そこに接続できるという事…僕には魅力が溢れていますね…」
「或いは…妄想を撒き散らす事が出来る事も?」
「さぁ?どうでしょう?」
楽しそうに夜羽は笑った。

テープは途切れた。

どんなに粗悪でも、『ここ』と電網を直接繋ぐ事が出来るのは、ネギぼーずだけなんだ。
妄想が面白くないってことがあるとしたら、それは、妄想の質が悪いわけじゃないからね。
フィルターがちゃんと、情報を置いてくれないのが悪いんだ。
そこのところ、よろしく。
「よろしく」に、妙に夜羽は念を押した。


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