テープ62 禁忌


人はその関係の中にルールを作って生活している。
ルールがあれば、ルールを守らない事は禁忌とされる。
でも、ルールを知らない。そんな異邦人もいる。これはそういうお話…

テープは回る。

「僕は問いかけるの『どうしていけないの?』と…」
「さて…何がいけないのでしょうか?」
夜羽は問いに問いでかえす。
「わからないの?禁忌とか言われている事、守ろうといわれていることを守らない事、どうしていけないの?」
客の声は幼さが残っている。
声変わり如何ではなく、口調がどことなく幼い。
「法に挑戦しようと?」
「法?そんなのじゃないよ。僕はどうしていけないのかが知りたいだけなんだ」
知りたい事をはぐらかされている、幼子のように客は問う。
その口調にはわずかの苛立ちも含まれているようだ。

「僕は知りたいんだ。人を殺す事、物を盗っていく事、人を傷付ける事、物を壊す事…どうしていけないの?」
「それは…まぁ、一般論では『迷惑』するからじゃないんですか?」
「僕もそう言われているんだ。でも、わからない。どうして迷惑しない人までそんな事言うの?」
「さて…遠回しに迷惑しているんじゃないですか?」
「そうじゃないんだ。全然迷惑しない人が言うんだよ。僕は別にあなたたちをどうこうしようとしているわけじゃないのに…」
「彼らの常識で考えて、許せないからじゃないんですか?」
「僕から見れば彼らこそおかしいよ…だって、僕の破壊対象があなたたちならば、あなたたちが喚く理由もわかる。でも…どうして?どうしていけないの?常識がないのはあっちだよ。彼らの法とかで僕の事を雁字搦めに縛り付けているんだ。僕は迷惑をしているんだ…」
客の口調が少し、凄みを帯びた。
「彼らがいる事で…僕は迷惑しているんだ…」

「ええと…あなたが行動に出ても構いませんが…あなたのいう、その、漠然とした『彼ら』が、必ず反撃に出るでしょうね…」
「そんなのわかってる」
客はきっぱりと答えた。
怯えはない。
「僕は負けない。僕は反撃がくる事を知っていて攻撃をする。僕は行動するとその『返し』がくる事を知っている。僕はそれを知っている。そして、僕は迷惑をかけないように行動をしているんだ」
客の台詞の後には、「なのに…」とでも付きそうである。
客はそれを続けず、少し、黙った。

「…そうか…」
不意に客が呟いた。
「何か?」
「わかったんだ…」
客の声が、暗い笑みをたたえた。
「みんな妄想に囚われているんだ…彼らの『禁忌』を侵す事で、何か、悪い事が起きるという妄想にとらわれているんだ…ふふっ…可哀相…」
「可哀相?」
「そう、可哀相な人達…僕が目を覚ましてあげる…あなたたちの禁忌は妄想にすぎないという事…それらはすべて不要であるという事…僕がこの身を持って教えてあげよう…」
客はくすくす笑い出した。

テープはここで終わった。

確かに、法なんて誰かが決めたもの。自分の主義にそぐわなければ窮屈さ。
でも、それらに守られている人種もいるという事。
法の中で喚く彼らも、禁忌を侵さんとしている人も、どこかしら守られている…
喚くのも行動するのも勝手だけど、…うるさいから僕の知らないところでしてね。
そう言うと、夜羽は悪戯っぽく微笑んだ。


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