テープ64 裏


世の中、多様な側面で出来てる。
極端に見る人は「表と裏」何て言葉を使うんだろう。
そんな言葉を使って世の中を語る人のお話しだよ…

夜羽はテープをセットし、再生をさせた。

ドアが開いた音がし、ノイズのような雨音が一瞬聞こえ、
ドアが閉じ、外の音は隔絶された。
「雨…ですね」
夜羽のものでない声がポツリといった。
おそらくは客のものだろう。
「この街にも季節があるという事ですよ。今は、梅雨ですか…」
夜羽はそう返すと、
「では、話していただきましょうか?」
と、いつものように妄想を促した。

「雨があれば晴れるように…明があれば暗があるように…この世の中は極端から極端にてなりたってます…」
「ふむ…」
「そう…正があれば逆があり…表があれば裏もある…」
卓上で布の上を何か軽いものが滑る音…
トランプか何かのカードが滑ったのだろうか。
そして、めくったような音。
「それでも、重視されるは表だけ…裏は存在するだけが価値なのですよ」
客は何か感情を含めているらしい。
声だけでは、その感情は何かに包まれているように曖昧である。

「そう、春の風があんなにも強いのは、裏を曝すため…裏が存在する事を示さないと、表の世界に安穏としている輩は、裏の世界を忘れてしまう…」
「春の風…春一番とかでしょうか?」
「そう、あれらですよ。若い緑の初々しさに裏がある事を示すため…風はあんなにも強いのですよ」
「日本だけじゃないんでしょうか…そういうのは…」
夜羽がそんな事を言ってみる。
客は答える。
「そういう動きはこの世界のどこでもあるものですよ。表を曝すなら、やがて裏も曝すように…そういう風に、この世界は成り立っているのです」
客は言葉を区切る。
カードがシャッフルされている音が静かにする。
「表だけでは成り立たない。裏だけでは価値がない。だから、表と裏は時折逆転されて…」
ヒュッと音を立てて、カードがめくられたらしい。
「そう、めくられるんですよ…このカードみたいに」

「裏は主でないが故に裏…でも、そろそろ裏を曝してもいい時期かとは思うね…」
客は卓上に…多分カードを置いた。
「裏もまた表になりうる事を俺は証明をしたい…」
夜羽は黙っている。
「俺はこんな日陰にはいたくない。春の風のような荒らしはやがて来たる。その時こそ俺は成り代わる。表に…主である事が似合うのは俺だ…そして…春の嵐の後に来たる、日差しや雨をこの身に受けるのは俺だ…」

ドアが開いた。そして閉じた。
雨音はもう聞こえなかった。

テープは止まった。

裏は主で無いが故に裏…
でも、表裏と区別つける事ないと思うんだけどね…
曖昧で、いいと思うのは僕だけなのかな…
夜羽は軽く、溜息をついた。


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