テープ68 醜聞


醜聞と書いてスキャンダル。
まぁ…このタイトルは、字のとおりでいいと思う。
スキャンダルというより、醜いものが耳に入るような…そんな感じだと思う。
夜羽は少し嫌そうに、そう言った。

再生を開始すると、客の語りがいきなりはじまった。
テープの巻き戻しそびれではないらしい。
夜羽はこれでいいんだというように頷いた。
テープの中からは、喚き声に近い客の声が再生されている。
「…から、あんな女は降板されて当然なのよ!大体、演技も出来ない顔だけの女。顔も悪いわね!あはははは!」
「僕はその方を知らないのですが…そんなに悪いのですか?」
夜羽が質問をした。
客の…多分、女性は大きく喉を鳴らして何かを飲み干し、
「おかわりよっ!」
と、怒鳴った。そして、
「で、何?」
と、夜羽に聞き返した。
夜羽は先の質問を繰り返す羽目に陥った。

「悪いなんて物じゃないわよ!」
客は質問に答えたらしい。
口の中に何か物がある言い回しだ。何かを食べながらなのだろうか?
「歌も出来ないくせにCDなんか出すし、歌手気取り!?あまりの音痴でいっそ憐れみを覚えるわ!大体、あの女は何を目指していたの?名を売るためなら何でもするって言うの?歌もドラマも…全てが中途半端だというのよ!ふんっ」
客は最後に、録音できるくらいの荒い鼻息を吐いた。
間があり…
「…相当お嫌いなんですね…」
と、夜羽は妄想屋としてではなく、一個人としてげんなりした口調で言った。

咀嚼の音がする。
先程の客が、食事をしているのだろう。
「しかし…」
夜羽が口を開いた。
「むが?」
客が反応をし、意味のない音声を発した。
「いや、嫌いだと言われるわりに、結構その女性の動向をご存知ですね…と」
「当然じゃないの!」
客が怒鳴った。大声を出すのは癖なのだろうか?
視覚に出来れば唾が飛んでいそうだ。
「あの女は特別であっちゃいけないの!私はあの女を引き摺り下ろしたいのよ。特別でないということを知らしめるため、私はあの女の粗探しを続けるわ。あの女を…」
客はここで…多分口を拭くか、何かを飲むかした。そして、
「あの女を『普通』のランクまで、引き摺り下ろしたいのよ!」
「はぁ…」
夜羽はそれだけしか言えなかった。

「…大体、自分で醜聞煽っちゃいけないわよね。男関係なんて尚更。醜聞で有名になろうなんて、恥という言葉が欠落しているとしか思えないわ!こんなのが芸能人なんて呼ばれちゃだめ!これがただの一個人なら許せるのにねぇ…頭の悪い女はこれだから嫌いよ」
客の語気は荒い。
「しかし、引き摺り下ろしたいのを引いたとしても…なんというか、よくその方のことをご存知ですね…お知り合いですか?」
客は…笑った。
塞き止めていた何かが溢れるように笑った。
「あなた、あの女を本当に知らないの?」
「すみません、情報不足で…」
夜羽は答えた。
客は言った。

「あの女は…『ここ』にいるじゃないの」

テープはそこで終わった。

そう言って彼女は自分を指差した…。
話はそれで終わったんだ。
彼女が散々嫌悪していた有名人かどうかは僕は知らない。
有名人と自分を同一視しているのか?或いは有名人である自分を貶めたいのか?
情報が乏しい時、それは全て妄想に委ねられてしまうものだと思うんだ…
夜羽はそう締めくくった。


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