テープ76 迷宮


複雑な構造をした建物…とばかりはいえないんだろうけど…そういうのが迷宮かもしれない。
迷宮って呼ばれるのも、今ではなくなっちゃったのがほとんどなんだろうけど…
探せば意外なところに迷宮があったんだ…

「俺は夢に潜ってるんだ」
「夢に…」
「夢と現実を飛び回ってるんだ。かっこいいだろ」
客の…若い男は豪快に笑った。
盗賊とか海賊とか…もう、ずっとむかしの『賊』という職業が似合いそうだ。
「どんな夢を飛び回っているのですか?」
夜羽は少し興味を持っている。
夢と妄想に近い物を感じているのかもしれない。
「そうだなぁ…たとえるなら…ふかーいふかい迷宮だ…」
「ラビリンス…」
「わざわざ横文字にしなくてもいいだろ。迷宮は迷宮。脳の皺が織り成している訳じゃないんだろうが、そのくらい複雑な迷宮だ…俺はその夢の迷宮に潜り込む。そういうことをしてるんだ」
「なるほど…」

「夢に潜って…何をしているのですか?」
「あんたが、迷宮に潜るとするなら…何を求める?」
質問で返された。
夜羽は少し間を置いて答える。
「迷宮にもよりましょうが…リスクを冒すだけの見返り…でしょうか。知識、宝…のような」
「俺もそんなものだ」
客は何かを飲み干した。
飲み干して大きく息をついた。
「俺は夢の迷宮に潜って宝を探す。そして、それを…」
客は多分にやっと笑った。
「現実に持ち帰って金にする訳だ。夢の品は希少価値高いからな、いい値で売れるぜ」
客は得意げに言った。

間があり、夜羽が問いかけた。
「時に…夢の迷宮を歩き回るのはどんな感じですか?」
ちっちっち…という音が聞こえた。
「違う違う…夢は飛び回るものだ」
「飛び回るんですか…?」
「あんたも経験あるだろ?夢は歩かないでも前に進むし、全力で走っても後退する。俺はそれなりに労力惜しんで飛び回る感覚を使ってる。飛び回るのはなかなか爽快だぜ」
「こう、空を飛ぶように…ですか?」
「違うな…助走のない幅跳びみたいなもんだ」
「ふぅむ…」
「俺はそうやって、迷宮を飛び回り、宝を探して現実に帰る。でもなぁ…夢は所詮夢…俺は夢の住人じゃない…やっぱり、それなりの反応が出る訳だ」
「反応?」
「そう、拒絶される訳だ…異質なものを排除しようとするんだろうな…」
「どんな感覚ですか?」
夜羽の問いに客は考えた。
「まずなぁ…こう、空気が徐々に自分の周りだけ澱んでる気がするんだ。あとはあれだ。床」
「床…ですか?」
「そう、床。床が脆くなる。あれもきっと拒絶反応だ。それもあって常に飛び回っている訳なんだが…」
それでも客は言った。
「…でもな、あの夢の感覚覚えたら、病み付きになるぜ…」
声には不敵さが滲んでいた。

テープは止まった。

「そういえばね…」
間があり、夜羽は止まったテープを取り出しながら何かを思い出した。
「ネギが来たんだ。僕の知人…あれがこれを聞いて何か思い当たったことがあるみたいなんだ…」
はっとした表情してた。
そして、とあるゲームの話と、アドレスを教えてくれた。メモはここにある…けど
夜羽はそう言った。
また、笑いながら続けた。
「前にもこんな事あった。偶然とは思えないよねぇ…」


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