テープ81 時計


時計。無機質に一定に時間を刻むもの。
これに追いかけ回されている人、多いんじゃないかな?
どこかの不思議なウサギみたいに。
さてさて、このお話はそんな時計にまつわるお話…

テープはゆっくり廻った。

「時間は常に一定だと思っていますか?」
客が問う。
秒針が近くと遠くで聞こえる。
半秒、ずれているらしい。
「さぁ…」
夜羽は曖昧に答えた。そして
「あなたはどうお考えですか?」
と、促した。
客は答えた。
「存在それぞれが時間を持っています。それらは決して一定ではないと僕は考えています…」
「存在?」
「そう、存在です。人、動物、物…そして、時計さえも…」
いつのまにか、秒針の音が重なっていた。
沈黙の中、ゆっくりと秒針の音はずれていった。

「僕は、存在がその内に時計を抱えていると思っています」
「体内時計のような?」
「もっと、その存在にとってウエイトをしめるものです。…まぁ、そういう表現でもいいでしょう」
「ふむ…」
客が続けた。
「そして、これが重要なのですが…その時計は簡単に狂います。たとえば…」
客がうーんと唸った。
「…例えばですね。楽しい時はすぐに過ぎ、辛い時間は永遠にすら感じる…あれですよ」
「それはよく聞きますよね。あれは時計が狂っている状態なのですか?」
客は肯定をした。
「そう、早くまわる、遅くまわる、その程度の狂いです。狂うといっても…生活というものに影響がさほど出るとは思われない…むしろ、感覚というものは、その程度の揺らぎがあった方がいいかと思い、私をはじめ、だれも改めようとしないのです」
夜羽は一言、ひっかかったらしい。
「…私をはじめ…とは?」
客はきっとにんまりと笑った。
「私は、環境と存在内時計の関係を研究しています…」

「ほぅ…」
夜羽は素直に感嘆したようだ。
「時計学の分野も様々ありまして…私は逆行を研究しています…」
「逆行?若返りとか…?」
「まぁ、そんなところです」
「…できるのですか?」
夜羽の声は、信じていない。
ところが
「出来ました。もっとも…あれは成功とはいませんでしたが…」
客はあっさり肯定をした。

「その研究を少しだけ、聞かせていただきますか?」
「ええ…あれは数ヶ月前のことでした…」
客がぽつぽつと話す。
「私達はある少年で逆行の実験をしていました…人体実験という感も、失敗をする恐れも全然なかった…私達はその少年の周囲の環境を逆行にあわせ、少年の時計を逆回しをさせようとしていました…しかし…」
「失敗…したのですか?」
「いえ…成功はしました、しましたが…」
「しましたが?」
「その少年は…受精卵レベルまで逆行をし、消滅しました…そして…ありえないことに…少年のいたそこには…時計が一つ…すごい勢いで逆回転をしていました…」
「存在内には時計が…?」
「違います。その時計は存在の消滅と共に消滅するはずなのに…存在が消滅して尚、時計のみ逆回転をしているのです…存在が存在すると同時に時計もまたあるものと私達は考えていましたが…この実験により、時計は存在の存在前にあり、存在があると同時に埋め込まれるものではないかと…」
「誰に?」
「それは…わかりません」
客は沈黙した。
時計の音がコチコチと鳴っていた。

テープは止まった。

彼等がどんな団体かは聞かなかったんだけど…
彼等はどうやら自分達より上の存在のがある可能性を見たのかもしれない。
神様かもしれない。
悪魔かもしれない。
彼等がどんな結論を出すか。僕はとても楽しみなんだ。
夜羽はくすくす笑った。


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