テープ82 未来


未来を思い描くのも…
現実ではないということを考えているという点では、妄想に似ているのかもしれない。
それでも、未来を見たりするとなると…それを予言としているとなると…
時として、他人を巻き込んだものに膨れ上がって変質する。
今回のお話は、どうも微妙な位置にある妄想。

テープは回った。

「未来が見えるといったら、驚かれますか?」
これは多分今回の客。そして、語り手だ。
「いえ、あまり…よく聞くことですので」
夜羽の声は、言うに違わず動揺がない。
客はそれを受けて、コロコロと笑った。
「正直な人は好きです」
「はぁ…」
気のない夜羽をよそに、客は続ける。
「まぁ…よくあることかもしれませんが、聞いていただけると嬉しいです」
「いえいえ、聞かせていただきます。それが僕のここにいる理由ですし」

「ええと…まず質問からいいでしょうか…」
「はい。どうぞ」
夜羽は少し考え、問う。
「未来を見るのはどういう状態なのですか?」
客は「ふーむ」と少しだけ唸り
「…夢、見るんですよ…」
「夢?」
「そうそう、だから至極曖昧なんですけどね。見たという事実は覚えてる訳です」
「まぁ…夢なんて概ねそんなものですが…」
「それのちょっとした付加要素があるものです。あとあとになって、これを夢で見たな、と…ま、そんなものです」
「ええと…ということは…」
夜羽が少しまとめる。
「夢で未来を見たことは未来にならない限り、確信を得られない…」
「そんなところです。時々夢の続きを見ている気がして、ちょっと人生お得かなとも思いますがね」
客はやっぱりコロコロ笑った。

「最近…」
「あ、はい?」
気がついた夜羽が、「どうぞ」と促す。
「はい。最近…それでちょっと気になったことがありまして…」
「ほうほう…どんな?」
「ええとですねぇ…夢で、ある商品を見ました。その商品の発表の会のようで…素晴らしい商品でした」
「ふむふむ」
「たまたまその日は夢をよく覚えていたので、その商品の細かな点まで書き留め、しばらくしてから、その商品を発表しました…で、夢と同じシーンの商品発表シーンをまた見たわけなんですけど…ここでいろいろ思ったんですよ」
「と、言いますと?」
「最初にその商品を考えたのは誰なんですかね?」
客の声はちょっととぼけている。
「それは、あなたなのではないでしょうか?」
夜羽が言う。
しかし、客はその言葉にちょっと納得しないらしい。
「でも、未来から案を得たとする場合、どっちが先なんでしょうねぇ…」
客は短く溜息して呟いた。
「卵が先か、鶏が先か…?」
その声は、やはりどこか楽しんでいた。

テープはここで終わった。

特別な能力なのかどうかは知らないけど、
それを用いて、人生楽しめるというのはいいよね。
そう、楽しめること。それってきっと大事さ。
夜羽はそう諭すように言うと、珍しく紅茶をすすった。


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