テープ85 悪魔


昔々から、神の対として悪魔がいた。
それは本当に対なのか…
神を正当化するために、そういう立場とされているだけではないのかと…
まぁ、僕がそう思うことはあまり関係ない。
これは悪魔を使うという人のお話だ…

テープは回った。

「魔術に興味はありますか?」
今回の客らしい。
どろりとした感じを含んだ、男の声だ。
聞き流すだけなら、別に普通と思えるに違いない。
「嫌いではありませんよ」
夜羽は多分微笑すら浮かべてそう言った。
客はその答えに簡単な相槌を打ち、
「それで、魔術をつかったことは?」
と、訊ねた。
夜羽が答える。
「リスクが嫌いでしてね…かく言うあなたは?」
客は、明らかに夜羽を見下して言った。
「使ったことですか?ありますよ」
客はくっくっくと笑った。

「まず…あなたは勘違いをしているようです」
言葉だけなら諭しているようだ。
しかし、客の声には優越感がこびりついている。
「魔術というものには大したリスクはありません。魔術とは、自分の意識の中から自分の思うように物事を動かす見えない力を引き出す儀式なのです…」
「ふぅむ…」
夜羽はあまり口をはさまない。
面倒なのかもしれない。
客は大袈裟に呼吸を置き、また喋る。
「悪魔召喚また然り…あれだって、精神の奥底から悪魔と分類される事象を呼び出す儀式のこと…悪魔は私…リスクというものは全然ないのですよ。見えない私が、世界を思うままに操る…しかもリスク無しに。素晴らしいことだと思いませんか?」
微妙に勧誘が入ってきている。
リスクが無いということが、強調されている。
夜羽は、苦笑いまじりに溜息を付いたらしい。

「大体…悪魔を召喚するのに、おどろおどろしい道具なんて要らないのです…」
「では、どのようにして呼ぶのですか?」
客は少しもったいぶったが、
やがて話し出した。
「悪魔を写すと信じることのできる鏡…これはマジックで黒く塗ってあるようなものがいい…そして、悪魔に乗っ取られないと信じることのできる魔法陣…これは自分がそこに入ることができればなんでもいいのです…そう、信じることができれば、私の中の悪魔はいつでも力を貸してくれるのです…」
「ふむ…」
「自らの内部の獣の意識に同調し…意識の根底のそれから、悪魔というものを召喚する…そのあるための儀式…そう、儀式が必要なのですよ…そこまで意識を持っていくには、自分にすらそう思い込ませる、儀式が必要なのです」
「儀式…ですか…」
そしてふと、夜羽は何か思い当たったようだ。
客に質問をする。
「あなたは悪魔を使ってどういうことをしたんですか?」
客は…考えている。
自分を表現するに相応しい言葉を選んでいるのかもしれない。
やがて話し出す。
「偶然を操る能力を…得ましたね。私の敵が偶然死ぬ。私に偶然大金が舞い込む…悪魔の力とはそんな風にあらわれるのですよ」
おわかりですか?
と、客は勝手に締めくくった。

テープはここで終わった。

これだけ聞くとね…
どうも、悪魔を本当に呼び出したかがわかんないんだ…
全部、思い込み、妄想なのかもしれない。
だから僕はこのテープをここに置いてみたんだ。
実際は、妄想ではないのかもしれないけどね…僕は妄想かもしれないと思った。そういうことなんだ。
そして、夜羽は苦笑いをした。


妄想屋に戻る